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言語技術

2010年02月16日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 「容器の比喩と擬人の比喩 II」で提起した「日本語表現における主体の論理をどのように構築していくか」という課題について、子どもの教育の視点から考えてみたい。“「言語技術」が日本のサッカーを変える”田嶋幸三著(光文社新書)は、サッカーの教育現場における言語の重要性について書かれた本である。本カバー裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

「そのプレーの意図は?」と訊かれたとき、監督の目を見て答えを探ろうとする日本人。世界の強国では子どもでさえ自分の考えを明確に説明し、クリエイティブなプレーをしている。
日本サッカーに足りないのは自己決定力であり、その基盤となる論理力と言語力なのだ。
本書は、公認指導者ライセンスやエリート養成機構・JFAアカデミー福島の仮クラムで始まった「ディベート」「言語技術」といった画期的トレーニングの理論とメソッドを紹介する。

(引用終了)

 「容器の比喩と擬人の比喩」「容器の比喩と擬人の比喩 II」などで引用してきた“日本語は論理的である”月本洋著(講談社選書メチエ)によると、日本語もけっして論理的でないわけでは無いが、空間の論理が多用されるため、主体の論理が疎かになるという。月本氏は、この主体の論理を「主語−述語」、空間の論理を「主題−解説」という関係で説明しておられる。「主語−述語」の関係は「AがBをする」、「主題−解説」は「AはBである」と置き換えて考えれば分りやすい。日本語では「AはBである」という云い回しが多用されるということである。前回「存在としてのbeについて」の項でご紹介した副島隆彦氏も、“英文法の謎を解く” (ちくま新書)の中で、

(引用開始)

 日本文を英文(ヨーロッパ語の文)と比較して、ひとつの大きな特徴があることに気づく。日本文は、どんなに複雑に見えようとも「A=B」に還元できる言語である。「きのうは疲れた」でも、「みんなの願いは景気回復だ」でも「彼はダメだ」「彼女はうるさい」でも何でも、全て、この「A=B」の構成になっている。これを英文に直すと、それが何通りかの文構成になるのである。ここに日本語という言語の重大な秘密が隠されているのではないか。

(引用終了)
<同書52−53ページ>

と述べておられる。これまでこのブログで展開してきた対比で云えば、

A 英語的発想−主格中心−擬人比喩の多用−「主語−述語」
B 日本語的発想−環境中心−容器比喩の多用−「主題−解説」

ということになる。日本語的発想では環境(空間)中心に物事を考えがちなので、環境を守る力は大きいけれど、主体的にものごとを決定していく力が弱いということなのである。サッカーで云えば、チームワークはよいのだが、シュートの決定力に欠けるということだろうか。

 勿論、社会全体としては、どちらが良いとか悪いとかという話ではなく、両者のバランスが大切なのだが、サッカーにおける言語教育としては、「主題−解説」の関係は日々日本語を話す中で会得できているのだから、それと対比する「主語−述語」の関係の体得が重要なわけだ。

 JFAアカデミーでは、「つくば言語技術教育研究所」の三森ゆかり氏による「言語技術」トレーニングを取り入れているという。くわしくは“「言語技術」が日本のサッカーを変える”田嶋幸三著(光文社新書)をお読みいただきたいが、その中にある、U−12(12歳以下)のトレーニング法の一部を引用しよう。

(引用開始)

 日本語は、主語があいまいなままでも通用する言語です。特に1人称の「僕・私」は会話の中でも文章の中でも欠落しがちです。逆にきちんと1人称が入っている会話や文章は「自己主張が強い」と嫌われる傾向にあります。けれども自分の考えに責任を持つためには、まず誰の考えなのかをはっきりさせることから始めなければなりません。そのために誰が主体となって考えを述べているのかを明らかにする必要があります。
 子どもが「僕(私)たち」「みんな」と複数形を使ったときも要注意です。誰が「複数」の中に含まれるのかを必ず確認する必要があります。無責任に複数形が使われることが多いからです。主語の認識は国内で生活する上でも重要ですが、子どもが将来海外でプレーしたいと望むとき、主語が動詞を規定する欧米の言語では、主語をきちっと認識しながら言葉を操ることが求められます。(後略)

(引用終了)
<同書82−84ページ>

 「日本語表現における主体の論理をどのように構築していくか」という課題は、「存在としてのbeについて」の項で述べた翻訳上の努力や、このような地道なトレーニングによって、少しずつ解決していく必要がある。と同時に、「盤上の自由」の項で触れた、「日本の縦型社会の見直し」も重要になってくるだろう。それについてはまた項を改めて考えていきたい。尚、「僕たち」や「みんな」という複数形(集合名詞)を使うことの危うさについては、このブログでも以前「集合名詞(collective noun)の罠」の項で触れたので、ご参照いただければと思う。

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posted by 茂木賛 at 10:39 | Permalink | Comment(0) | 言葉について

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