(引用開始)
ふたつの森を接続する
建築よりもずっと大きなもの(都市計画)と、ずっと小さなもの(ディテール)を繋ぎたかった。
根津美術館は、表参道の南端に位置する。敷地を歩き回っているうちに、あることに気がついた。表参道は、北端に明治神宮、南端に根津美術館というふたつの「森」を抱えているからこそ、その賑わいに深みがあり、街が柔らかい。表参道とこの「森」をどう接続するかが課題なのだと気が付いたのである。表参道のノイジーなアクティビティをまず竹の「森」で受け止め、表参道の流れのベクトルを、90度旋回させて(日本庭園独特の技法である旋回)40mの竹林、深い(3.6m)庇の間を歩かせて、しっかりとカームダウン(沈静化)させて、「森」に接続させるという「接続形式」に辿り着いた時、この美術館の課題の50%は解けたと思った。これは「露地」という伝統的手法の、アーバンデザインへのアプリケーションかもしれない。(後略)
(引用終了)
<「新建築」11/2009号64ページより>

隈氏はさらに、「瓦屋根」によって、建物と地面、美術館と街の人々とを繋ぐ。氏のコメントを同じ雑誌から引き続き引用する。
(引用開始)
屋根による接続
もうひとつの「接続」の鍵は屋根である。屋根がつくる深い影が、groundとboxを接続する。(中略)その深い影の下のガラス壁の前に、彫像が並ぶ。アートと庭とがひとつの体験として共存する。屋根と地面との接続には、影だけではなく、屋根の構造性も、また大きな働きをしている。斜めの面、線がつくるトラスト効果によって、地面の上に安定した架構をつくるところに屋根の本質がある。(中略)その屋根の構造性を感じることができるように、軒下の鉄骨の露出をはじめ架構そのものを、可能な限り露出しようと試みた。特に軒の低さと庇の出の深さに留意した。(中略)
瓦という粒子
屋根は、大きいフレームで見れば都市的な装置であるが、小さなスケールで見れば、この屋根と構成する「粒子*」が、か弱い身体と、建築という大きなものとを仲介し、繊細なスケール(たとえば葉、枝)の集合体である「森」と、建築という大きさとの仲介をする。根津では瓦という粒子を選択した。旧根津美術館のお蔵の上にのっていた瓦の粒子感が、この街の人々の身体に、そしてこの通りに浸み込んでいたからである。都市計画は、高さや容積率やオープンスペーズだけの計画だと誤解されているが、実は都市計画とは粒子の計画であり、都市計画にとってそれを構成する粒子は、決定的に重要なパラメターなのである。(後略)
*都市は「粒子」によって構成されている。粒子を上手く選択することで、建築と都市を調停することにわれわれは関心を持っている。
(引用終了)
<同書64ページ>

「つながっていく性質を持つ3」ではないが、隈氏は根津美術館の設計に当たり、「森」と「屋根」、「瓦(粒子)」という3つの媒体を用いて、「街のつながり」を工夫したのである。
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