「3の構造」の項を書いたのが今年の8月、その後10月に、“「3」の発想”芳沢光雄著(新潮選書)という本が出版された。その偶然に驚いたけれど、3の重要性について考えている人が他にもいたということで、己の意を強くした。まず同書の裏表紙の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
思考力や応用力は、計算ドリルの繰り返しでは身につかない!数学の世界では、「3」の発想を会得すれば、それ以上の数の事象についても応用によって解けるケースが多い。ティッシュペーパーやドミノ倒しの原理、オモリを使った計測法、3項計算、三段論法、作況指数とジニ係数など、分りやすい例を挙げ、いかに「3」を学ぶことが重要かを説く。「ゆとり教育」で損なわれた「考える数学」が本書で身につく。
(引用終了)
本のサブタイトルが“数学教育に欠けているもの”とあるように、芳沢氏は、数学教育の見地から3の重要性を説いておられる。詳しくは本書をお読みいただくとして、以下、その骨子を同書の4つの章に沿って纏めてみよう。
第1章 つながっていく性質を持つ「3」
ドミノ倒しのようにつながっていく現象を理解するのは、「2」ではなく「3」の発想が大切である。
第2章 「3」が要(かなめ)となる世界
机の脚やカメラの三脚は「3」が特に安定している例だが、ジャンケンなどの「3すくみ」や「三角測量」なども、同じように「3」が重要な意味を持つ。
第3章 関係を定める時に必要な「3」
「三段論法」などに見られるように、相互に関係する作用を一つずつ整理する上で、3つの関係の仕組みが礎となる場合が多い。
第4章 現象の特徴を表わすことができる「3」
「3K」などのように、私たちはものごとの現象を3つの要因や特徴で表現することが多い。
以上だが、この4つの特徴を、以前「3の構造 II」において纏めた三項目と照らし合わせると、
(イ)頂点性
第4章 現象の特徴を表わすことができる「3」
(ロ)安定性
第2章 「3」が要(かなめ)となる世界
(ハ)発展性
第1章 つながっていく性質を持つ「3」
第3章 関係を定める時に必要な「3」
ということになるだろうか。芳沢氏は、本書の最後に以下のように書いておられる。
(引用開始)
「ちえ」には2通りの書き方がある。「知恵」と「智慧」。前者は説明の必要がないだろう。後者は仏教で使われる言葉である。意味は、相対世界に向かう働きの智と、悟りを導く精神作用の慧。物事をありのままに把握し、真理を見極める認識力(『大辞泉』より)。そして、それは「聞慧」「思慧」「修慧」の三つ、「三慧(さんえ)」から成り立つ。
聞慧とは、授業で聞いたり本を読んだりして、聞いたことや書いてあることを事実として知ることである。
思慧とは、聞慧として身に付いたものごとに関して、自分なりにそれらの間の繋がりを組み立てたり、それらの背景を理解できるように考えることである。
最後の修慧は、思慧として身に付いたものごとに関して、きちんと説明できるように書いたり、それらを応用して実践できるようにすることである。
(中略)
ドミノ倒しのように、次々とつながっていく性質を理解するときの「3番目」、3すくみのように「3」が要となる世界、計算規則の理解で必要な「3」項の計算、3Kや三慧のように物事を説明する上で必要な「3つ」の立場など、それらの中には、日本人を古くから支えてきた「もう1つの選択」というべき「3という発想」に通低するものがあると私は思っている。その忘れかけている大切な発想を意識して毎日を過ごすことが、行き過ぎた合理主義に取り囲まれた現在の日本に、強く求められているのではないだろうか。
(引用終了)
<同書165−173ページ>
我々も、「三慧」を用いて、日々の生活をバランスよく過ごしたいものだ。
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