夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


日記をつけるということ

2009年07月14日 [ 言葉について ]@sanmotegiをフォローする

 「シグモイド・カーブ」の中で、「興味の横展開」を自覚するということは、その興味の理由と度合いを頭の中で整理することだと書いたけれど、忘れてならないのは、自分を取り巻く環境や情報量の変化によって、それが時(t = life)とともに変化してゆくということである。

 興味の理由や度合いが変化していくことは悪いことではない。皆さんも、昨日まで気が合う友達だと思っていた相手が急に色あせて見えてきたことがあると思う。人はこの変化を「成長」と呼ぶ。ときにそれは「成長」ではなく「退化」と呼ぶべき場合もあるだろうが、いずれにしても「状態の変化」には違いない。興味の理由や度合いが変化していくことは、人にとって必然的なことである。

 「状態変化」それ自体を時系列に辿れば、自分の成長の軌跡が分かる。生まれた状態の自分が、何からどういう影響を受けて、それがどう蓄積されて(あるいは蓄積されずに)今の自分に至ったのか。それを自覚していれば、自分の強み、弱みを把握することが出来る。なにか大事な決断をしなければならない時、余裕を持って、どうすべきか考えることができる。環境が激変し不安に襲われた時、自分を信じることが出来る。

 状況の変化を時系列に辿るもっとも有効な手立ては、日記(ブログ)をつけることである。私は20年以上前から、簡単な内容(仕事の打合せや旅行、気候、食事、その日買った本や、読み終えた本の内容整理など)ではあるが、日記をつけている。

 昔の日記を読み返すと、当時如何に考えが至らなかったかに赤面することもあれば、既にあの頃こんなことを考えていたのか、と驚くこともある。しかし概ね、その時の自分の興味の理由と度合いとを思い起こすことが出来る。日記をつけるということは、「繰り返し読書法」のなかで、本を繰り返し読むと書かれた内容が短期記憶から長期記憶へと移る、と述べたことに近いのだろう。日記をつけることで、その日の出来事と、自分の興味の理由と度合いとが、長期記憶として脳に残るのだ。

 日記といえば、「立体的読書法」や「庭園について」で触れた永井壮吉(号荷風)が残した「断腸亭日乗」は、日記文学の大作として有名である。“荷風と東京 「断腸亭日乗」私註”川本三郎著(都市出版)から引用しよう。


(引用開始)

 「断腸亭日乗」は大正六年(一九一七年)九月十六日、荷風三十七歳(数えで三十九歳)のときから書き始められ、死の前日の昭和三十四年(一九五九年)四月二十九日まで書き続けられた実に四十二年間に及ぶ日記である。大正六、七年ころは何日か抜けているが、やがて加速がつき、大正九年ころからはほぼ毎日、その後は昭和二十年の東京大空襲のときも、終戦直後の混乱期にも一日も欠かすことなく書き続けられた。(中略)
 先年、私は荷風の遺族(養子、従兄弟の大島一雄・芸名杵屋五叟の子息)で荷風晩年の市川の家に住む永井永光(ひさみつ)氏から、この浄書され、帙に入った「断腸亭日乗」の実物を見る機会に恵まれたが、まず手帖に鉛筆でその日のメモを書いておき、次に万年筆で大型ノートにメモから起こした文章を書く、それに推敲を重ねて、最後に筆で和紙に書く、と実に丁寧に作られたもので、まさに谷崎潤一郎がいうように「そのまゝ版下になる」ように美しいものだった。生活の芸術化とはこのことをいうのだろう。

(引用終了)
<同書10-13ページ>

始めから公開することを前提に書かれているから、自分の為だけの日記とは違うけれど、日付を追って「断腸亭日乗」を読んでいくと、書かれた内容の面白さもさることながら、明治・大正・昭和を生きた永井壮吉という人間の、「興味の理由と度合い」の変遷を知ることが出来る。それによって(永井壮吉の理性と感性を通して)読者は、日本の近代化そのものの本質を窺い知ることができるのだ。

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posted by 茂木賛 at 09:24 | Permalink | Comment(0) | 言葉について

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