先回「興味の横展開」のなかで、
(引用開始)
自転車を買ってしばらく乗り回してからでないと、なぜ自分が興味を持ったのか本当のところは分からないから、自分が裾野の何処にいるかを知るには少し時間がかかるけれど、しばらくしてもやはり「身体を動かしながら風に当たるのが気持ちよい」ということに熱心な人は、類似性のある「ジョギングやマラソンなどのスポーツ」への興味が展開するわけだ。
(引用終了)
と書いたけれど、何かの意図が頭にひらめいてから、なぜそう思ったのかが本当に分かるまではどうしても時間がかかる。
多くの人は、何かに興味を持っても、そのことを充分長く続ける辛抱強さが無い。すぐに飽きて他のことに目が行ってしまう。だから何が本当に好きなのかわからない。頭の中に密度の低い情報がただなんとなく散らばっている状態のままになってしまう。興味の横展開は、その興味の理由と度合いを自覚するところから始まるのである。
「アートビジネス」や「エッジ・エフェクト」で紹介した分子生物学者の福岡伸一氏は、近著「動的平衡」(木楽舎)のなかで、自然現象におけるインプットとアウトプットの関係について、
(引用開始)
生命現象を含む自然界の仕組みの多くは、比例関係=線形性を保っていない。非線形性を取っている。自然界のインプットとアウトプットの関係の多くの場合、Sの字を左右に引き伸ばしたような、シグモイド・カーブという非線形性をとるのである。
非線形性は、たとえば音楽を聴くときにボリュームのダイヤルの回し具合(インプット)と聞こえ方(アウトプット)の関係を考えてみるとよくわかる。
ボリューム・ダイヤルをだんだん右にひねっていくと、ボリュームは大きくなっているはずなのに、音はなかなか大きく聞こえてこない。つまり最初の段階では、インプットに対する応答性は鈍い。
ところが、ボリューム・ダイヤルがある位置を越えると、音は急にガーンと大きくなって聞こえてくる。ここで応答は鋭く立ち上がるのである。しかし、ボリュームのダイヤルをかなり大きくひねった位置では、それ以上にダイヤルを回しても、大きな音は大きな音としか聞こえなくて、ダイヤルの回転に応じて大きくは聞こえない。
つまり、シグモンド・カーブにおいて、インプットとアウトプットの関係は、鈍―敏―鈍という変化をするのである。
(引用終了)
<同書95ページより>
と書いておられる。脳のニューロン・ネットワークにおいて、例えば、自転車に乗りたいという興味のインプット(ひらめき)から、なぜ乗りたいのかという理由を見つけるアウトプットまでの関係は、この「シグモイド・カーブ」のような非線形性があるのだろう。この非線形性の故に、自転車を買ってから暫く乗り回してからでないと、なぜ自分が興味を持ったのか本当のところが分からないのだろう。皆さんも、ひとつのことに興味を持ったら、すぐ飽きることなく、ゆっくり時間をかけて自分が何になぜ興味を持つのかを分析し、興味の横展開に繋げていって欲しい。
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