ここまで、「脳における自他分離と言語処理」の解説も兼ねて、
「身体運動意味論」
「メタファーについて」
「心と脳と社会の関係」
と書き続けてきたがいかがだろう、「脳における自他分離と言語処理」でみた、
I 日本語には身体性が強く残っていて母音の比重が多い(文化的特徴)
II 日本人は母音を左脳で聴く(身体運動意味論などより)
III 日本語は空間の論理が多く、主体の論理が少ない(脳科学の知見より)
IV 日本語に身体性が残り続ける(社会的特性)
という循環運動(IVから再びIへ)を理解いただけただろうか。念のために、補助線(1)から(5)を加えて、もう一度整理しておこう。
I 日本語には身体性が強く残っていて母音の比重が多い(文化的特徴)
(1)言語野は左脳にある
(2)社会と母国語の学習によって脳神経回路が組織化される
II 日本人は母音を左脳で聴く(身体運動意味論などより)
(3)脳の自他認識機能は右脳にある
(4)人は発話時に母音を内的に聴く
(5)日本人は発話時に自他分離の右脳をあまり刺激しない
III 日本語は空間の論理が多く、主体の論理が少ない(脳科学の知見より)
IV 日本語に身体性が残り続ける(社会的特性)
ということである。さらに詳しくは、「日本人の脳に主語はいらない」月本洋著(講談社選書メチエ)をじっくりとお読みいただきたい。
この論旨の範囲で、日本人の脳と身体のバランスについて考えてみよう。脳と身体、すなわち、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳の働き−「公(public)」
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き−「私(private)」
のバランスを考えていく上で、重要なことは何であろうか。ちなみに「脳と身体」で述べたように、ここでいう「脳」とは「大脳新皮質」を指し、「身体」とは「脳を身体機能のように使う」という意味である。自他分離機能は「大脳新皮質」に含まれる。
重要なのは、補助線(2)「社会と母国語の学習によって脳神経回路が組織化される」という部分だろう。
特に「社会」の及ぼす力は重要だ。「心と脳と社会の関係」でみたように、社会とは自分と他人とを心的相互作用で結ぶ集合である。それは言葉だけでなく、振る舞いや姿勢、顔の表情などの身体運動、拍手や発声、身体を育む食、身体を守る衣服や家、自然の風景、場としての学校や職場、街並みなど、「身体」に係る全てのものが含まれる。勿論身体を規制するところの慣習、制度としての政治や法律なども含まれる。これら社会の有り様全てが、日々われわれ日本人の脳神経回路の組織化に寄与しているのである。
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