「効率」と「効用」という二つのキーワードから、経済を考えてみよう。ここでいう経済とは、 “それ自体法則であるところの自然界の諸々の循環を含めて人間を養うシステム”(6ページ)「経済人類学を学ぶ」栗本慎一郎編著(有斐閣選書)を指し、社会の根本システム、その理法・摂理を意味する。
これまで「生産と消費について」などで見てきた「生産と消費論」を纏めると、
1. 人は社会の中で生産(他人のための行為)と消費(自分のための行為)を繰り返していく。人は自分のために生まれるのではなく社会のために生まれてくる。
2. ある人の生産は他のある人の消費であり二つは等価である。生産は主に理性的活動であり消費は主に感性的活動である。
というものだった。詳しくはカテゴリ「生産と消費論」の記事を順にお読みいただきたい。
1. 個人における生産と消費の循環(「人の生産活動に注目するということ」)
2. 社会における生産と消費の交換(「生産と消費について」)
3. 生産と消費の相補性(「アフォーダンスについて」)
4. 生産と消費の人間属性(「理性と感性」)
5. マーケティングにおける生産と消費(「統合と分散」「統合と分散II」)
6. 生産あっての消費(「生産が先か消費が先か」)
7. 生産の質を高める消費(「贅沢の意味」)
8. 生産と消費の等価性(「人を褒めるということ」「生産と消費の等価性」)
ここで、生産活動から生ずる便益のうち、計量化できるものを「効率」、出来ないものを「効用」と呼ぼう。A地点からB地点まで移動するのに、どれだけ早く移動できるかが「効率」であり、道中をいかに楽しめるかが「効用」である。
「効率」には値段がつけられるが、「効用」には値段がつけられない。新幹線チケットに値段はつくが、親しい友人と楽しむ旅に値段はつかない。どこかのクレジットカード会社にも、友情や愛情など、お金では買えない素晴らしいものを「プライスレス」と表現する宣伝があった。
「効率」には尺度としての時間が関わっている。「効用」に共通の尺度は存在しない。コンピューターなどの「効率」系商品は都市で流通し、温泉などの「効用」系サービスは自然と共にある。「効率」は脳が判別し、「効用」は身体が実感する。「効率と効用」は互いに影響しあいながら、社会の“人間を養うシステム”を構成している。人にとって脳と身体のバランスが大切なように、社会にとっては、効率と効用(=都市と自然)のバランスが重要である。
以前「競争か協調か II」の最後に、
(引用開始)
ビジネスの難しいところは、「生産と消費との等価性」を念頭に置きつつ、社会(都市)の約束事としてのお金の必要性を忘れてはならないところにある。(中略) 経営とは「金と良心との両立」を図ることなのである。
(引用終了)
と書いたけれど、社会における「効率と効用」のバランスは、経営における「金と良心との両立」と重なっている。
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