夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


リーダーの役割

2009年03月10日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 先回の「モチベーションの分布」を考慮しながら、目的集団におけるリーダーの役割について考えてみたい。これは「金属吸着剤」へいただいたコメントに触発されたことでもある。以下、会社の組織を例にとって見ていこう。

 リーダーはまず、社員を活かさなければならない。これは誰もが同意する役割だろう。その為に適正な給料を払うことは勿論だが、それだけでは不充分で、どうにかして「やる気」を引き出さなければ、社員を本当に活かしたことにはならない。しかし「モチベーションの分布」で見たように、ある目的に対する「やる気」はその人の興味の度合いに比例し、組織にはどうしても「全体のうち2割の人はよく働き、6割はふつうに働き、そして残りの2割はあまり働かない」という正規分布が出現してしまう。以前「組織の適正規模」で、

(引用開始)

 企業における組織の役割は、その構成メンバー全員が企業の「理念(Mission)と目的(Objective)」を理解し、”plan, do, see”のサイクルを通して、その目的を達成していくことにある。

(引用終了)

と書いたけれど、「理念と目的」は理解できても、全員目的に対して「やる気」が出るかどうかはまた別の問題なのだ。

 そうとするならば、リーダーの仕事は、皆の「やる気」を強引に会社の目的そのものに適合させようとするのではなく、敢えてモチベーションの分布を自然なことと弁えて、目的を細分化し、その上で適材適所を図ることだろう。研究開発に向いている人、セールスに向いている人、経理に向いている人などなど。いわば組織の内部にモチベーションのマトリックスを編み込むわけだ。目的と一見繋がらないこと(たとえば子育てなど)でも、うまく工夫(就業時間の調整など)すれば編み込めるはずだ。勿論、社員の単なる悪癖や怠慢は矯正しなければならない。

 さらに、適材適所だけで「やる気」を発揮させられない場合は、社員の転職や独立を支援することもリーダーの大切な仕事だと思う。事業の一部を「カーブアウト」するのも、社員の「やる気」を生かす優れた方法だ。

 社員が何に興味を持っているのか、何に向いているのかをよく見て、社内外で適材適所を図るのがリーダーの役割の第一である。このことは、「モチベーションの分布」で紹介した西成活裕氏が指摘する「無駄を生かす」ことにもつながる考え方だろう。

 次に、リーダーの手元に集まる情報について考えてみる。上記「組織の適正規模」で次のように指摘した。

(引用開始)

 安定成長時代の産業システムにおいては、市場や技術の変化が激しく、それに伴ってリーダーの方針や戦略も刻々変化する。また社員の職能も高付加価値化してくる。だから最新の情報を伝達するには、社員との意思疎通を一週間単位程度で繰り返さないと充分ではない筈だ。階層性の多い組織では、リーダーの意志が末端まで到達する間に、早くもリーダーの方針や戦略が変化してしまうのである。

(引用終了)

経営に必要な情報は、どうしてもリーダー及びその周辺に集中する。内容は変化し量は増えていくから、組織全体における情報量の分布は、概ね「ベキ則」に従う。

 ベキ則分布については、以前「ハブ(Hub)の役割」でスケールフリー性ネットワークとして説明した。構成要素(この場合は情報)自体が成長し、ネットワーク上優先的選択(この場合はリーダーとその周辺に情報が集中すること)が起きる場合の法則で、80:20の法則(全体の20%の人が80%の収入を得るという譬え)のように、平均値や分散値が捉えられない分布である。

 この分布は「モチベーションの分布」で引用した「無駄学」西成活裕著(新潮選書)のこの部分と重なる。

(引用開始)

トップ2割の人が企業の利益の8割を稼ぎ、残りの8割の人は利益の2割しか貢献していない、という意味で、「8対2の法則」ともいわれる。

(引用終了)

 会社の稼ぎが情報量に比例する、というのは直感的にも分かりやすい。ところで、社員のモチベーションの分布は、釣鐘型の正規分布に従うということだった。このあたり紛らわしいのでもう一度整理してみよう。

社員のモチベーション: 釣鐘型の正規分布に従う。
会社の稼ぎや情報密度: ベキ則分布「8対2の法則」に従う。

 情報密度はベキ則分布に従うから、リーダーは社員との情報交換を頻繁に繰り返さなければならない。全体の情報量が多ければ収益のチャンスも増える。また情報が共有されればされるほど組織の活性化が進むことは、「相転移と同期現象」や「エッジ・エフェクト」などで考察した。これは、以前「ハブ(Hub)の役割」で書いた、

(引用開始)

 多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった、安定成長時代の産業システムは、スモールワールド性がつくり出す「多様性」と「意外性」が発展の糧になる。だからハブの役割は、広く門戸を開き、公平性(次数相関「±0」)を心がけることで、数多くのリアルな「場」を作り出し、社会のスモールワールド性をより加速させることなのだ。

(引用終了)

という部分と重なる筈だ。リーダーの役割の第二は、情報共有による社内の活性化である。

 かくて、リーダーの役割は、第一に構成員の適材適所を図ること、そして第二に情報共有による組織内の活性化である、と纏めることが出来る。こう書くと至極当然のようだが、この二つはそれぞれ別の理論的根拠によって立つことに留意して欲しい。

 目的集団におけるリーダーは、構成員のやる気に関して、「モチベーションの分布」に配慮しつつ、手元に集まる情報密度に関しては、公平性(次数相関「±0」)を心がけなければならない。前者は釣鐘型の正規分布への対応であり、後者はベキ則分布「8対2の法則」への対応である。

 この二つの対応を混同したり、逆に扱ったりすると組織はたちまち非活性化する。組織の目的に対して誰もが「やる気」を持つべきだとか、重要な情報は組織内で共有しない方が安全だとか考えているリーダーはまだまだ多い。しかしそういった組織は、自然法則と社会理法とに反しているが故に、やがて崩壊していくだろう。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 12:10 | Permalink | Comment(0) | 起業論

この記事へのコメント

コメントを書く

お名前(必須)

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント(必須)

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ