多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といったこれからの新しい産業システムに対応する為には、大きな規模の企業よりもスモールビジネスの方が有利であることを、これまで、インターネットの普及(「スモールワールド・ネットワーク」)、効率とリスク分散(「カーブアウト」)、素早い経営判断の必要性(「カーブアウトII」)、地域密着型経営(「カーブアウトIII」)などから考察してきた。ここでは、組織の適正規模という側面からスモールビジネスの利点を考えてみよう。
企業における組織の役割は、その構成メンバー全員が企業の「理念(Mission)と目的(Objective)」を理解し、”plan, do, see”のサイクルを通して、その目的を達成していくことにある。(詳しくは「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」、「爆弾と安全装置」、「ホームズとワトソンII」などを参照のこと)
リーダーとしての社長は、自社組織がうまく回っているかを常に見ていなければならない。その為には、組織メンバーとの意思疎通を図ることが大切であることは云うまでもない。さて、社長が一日にじっくりと話し合うことのできる相手社員は何人ぐらいだろうか。皆さんも各々考えてみて欲しい。一日に一体何人の部下とじっくり話すことができるだろうか?
じっくり話し合う時間を20分程度としても、三人で1時間である。業務時間を一日10時間として、忙しい業務時間中様々な仕事をこなしながらだから、一日せいぜい5、6人というところではないだろうか。一週間にすると、25から30人程度である。出張などが入れば勿論時間はもっと少なくなる。
次に情報伝達における組織の階層性の問題について考えてみよう。高度成長時代を支えた大量生産・輸送・消費システムにおいては、市場や技術の変化も比較的穏やかで、社員の職能も単純化が可能だったので、階層の多い組織でも、時間をかければリーダーの意志は組織の末端まで届いただろう。
しかし、安定成長時代の産業システムにおいては、市場や技術の変化が激しく、それに伴ってリーダーの方針や戦略も刻々変化する。また社員の職能も高付加価値化してくる。だから最新の情報を伝達するには、社員との意思疎通を一週間単位程度で繰り返さないと充分ではない筈だ。階層性の多い組織では、リーダーの意志が末端まで到達する間に、早くもリーダーの方針や戦略が変化してしまうのである。
こういう会社は、外から見ると組織全体の動きがギクシャクしたものとして映る。それだけならばまだ良いが、極端な場合、社長が「甲」といっているのに、右の組織が「乙」、左の組織が「丙」と云っている、などということが頻繁に起こりうる。みなさんの会社は如何だろうか?
次に、社員同士の意思疎通という面から組織の適正規模を見てみよう。これも同じく業務時間を一日10時間として、忙しい業務時間中様々な仕事をこなしながらだから、一日せいぜい5、6人というところだ。一週間でやはり25から30人程度。逆に云うと、30人規模の組織であれば、社員同士のコミュニケーションも充分に取れる訳だ。チームワークがうまく機能すれば、「相転移と同期現象」で述べた、非線形的な現象(信じられないような力が発揮されたり、素晴らしい企画が生まれたりすること)も起こりやすい。
以上見てきたように、従業員30人規模のスモールビジネスは、組織の規模という面から見て、とても効率が良い筈だ。スモールビジネス・サポートセンターのトップページに小さな文字で、「ここでいうスモールビジネスとは、社長一人から全員で30人くらいまでの比較的小規模なビジネスを指します。」と書いてあるのはそういう意味が籠められている。勿論、業務内容によって、情報伝達以外の面から見た様々な適正規模があるから、あくまでも原則論として理解して欲しい。
さて、小さな組織は、「理念(Mission)と目的(Objective)」さえしっかり出来れば、短期間のうちにスタートしやすい。「チームプレイ」では、雇用機会の減少は、スモールビジネスにとって優れた人材を雇うチャンスであると書いたけれど、ここへ来て大きな組織から離れた人の中で、自分の得意分野で社会へ貢献したいと考えている人は、この際、積極的に起業することを志してみてはいかがだろう。
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