読書法についてはこれまで、「並行読書法」「繰り返し読書法」という二つを紹介した。今回は「立体的読書法」について述べてみよう。
以前の「並行読書法」は、幾つかの分野の本を同時並行的に読み進めることで、記憶や思考に関わるニューロンの同時発火を促すことが目的だったわけだが、この「立体的読書法」は、あるテーマについて複数分野の本を読み進め、さらにそれを連鎖させながら、その元のテーマの全体像を立体的に浮び上がらせようとするものである。いってみれば、「並行読書法」の手法をもっと意図的にテーマを絞って(同時並行性はあまり重視せずに)行なうわけだ。
分野は「並行読書法」と同じ、
1. Art
2. History
3. Natural Science
4. Social Science
5. Geography
とする。例としてテーマに「江戸・東京」を選んでみよう。
1. 『謎解き 広重「江戸百」』原信田実著(集英社新書 ヴィジュアル版)
2. 「日和下駄」永井壮吉(号荷風)著(岩波書店 荷風全集第十一巻)
3. 「東京の地形を考える(全10回)」松田磐余著(東京新聞連載4/27-9/7/06)
4. 「東京都市計画物語」越澤明著(ちくま学芸文庫)
5. 「東京の空間人類学」陣内秀信著(ちくま学芸文庫)
『謎解き 広重「江戸百」』は、浮世絵「江戸百景」が当時の様々な出来事とリンクして書かれた事実を解き明かす本。美しい広重の作品も全120点が掲載されている。一昨年この本の出版前後にお亡くなりになった著者故原信田実さんは私の兄の親友でもあった。ご冥福をお祈りする。「日和下駄」は云わずと知れた荷風の傑作。日和下駄に、杖代わりの蝙蝠傘を手にした著者が、東京の淫祠・樹・寺・水路・露地・崖・坂・夕陽などを巡る、大正時代の作品だ。荷風が散策したであろう四谷坂町には私の母方祖母の実家があった。「東京の地形を考える(全10回)」は、サブタイトルに「災害都市」とあるように、数々の災害に見舞われてきた東京について、関東平野・武蔵野台地・関東ローム層・東京低地・墨田川・荒川などから地形・地質の成り立ちを考える。「東京都市計画物語」は、後藤新平を始め明治から昭和に至る都市計画者たちの仕事を辿った作品。「東京の空間人類学」は、水の都東京を縦横に探訪する都市学の定番書だ。
これらの本(含新聞連載記事)を読み進めながら、さらにそれぞれの本・著者に関する複数分野の5冊を選ぶ。たとえば2.「日和下駄」に関する5冊。
1. 「荷風文学」日夏耿之介著(平凡社ライブラリー)
2. 「荷風散策」江藤淳著(新潮文庫)
3. 「女たちの荷風」松本哉著(白水社)
4. 「『断腸亭』の経済学」吉野俊彦著(NHK出版)
5. 「荷風と東京」川本三郎著(都市出版)
あるいは1.『謎解き 広重「江戸百」』に関連する5冊。
1. 「ライバル日本美術史」室伏哲郎著(創元社)
2. 「江戸の武家名鑑」藤實久美子著(吉川弘文館)
3. 「日本人の身体観」養老孟司著(日経ビジネス文庫)
4. 「江戸城」深井雅海著(中公新書)
5. 「大名屋敷の謎」安藤優一郎著(集英社新書)
さらに、実体験(自ら歩き回って得たもの)を加えて、これらの本・著者と元のテーマに関連する複数分野の5冊を選ぶ。中には元のテーマから外れるものもあるだろうがあまり厳密に考える必要はない。こうして読み進めていくと、「江戸・東京」というテーマについて様々な角度から光を当てることができ、徐々に全体像が見えてくる。
この読書法は、いわば一つの五角形からその一辺に対してそれぞれ別の五角形を作り、さらにその作業を連鎖させることで大きな立体的な構造を作り出すイメージなので、「立体的読書法」と名付けた。テーマに沿って異なる分野の本がダイナミックに連携するので視野が広がり、新しい発見・発想が生まれてくる。これからもときどき「あるテーマに関する5冊の本の紹介」を行なっていこう。
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