先日「競争か協調か II」のなかで、「競争を選ぶか協調を選ぶかは、資源全体の多寡・増減に依る」という原則に関連して、コイン・パーキングの例で、需要供給のバランスに応じて値段を上げたり下げたりするのではなく、他のビジネスとの協調・連携によって新しいサービスを作り出していくことの重要性を指摘した。これは、非線形科学でいう「相転移」の考え方を応用したものだ。
「非線形科学」蔵本由起著(集英社新書)によると、「相転移」とは、「氷、水、水蒸気のような物質のマクロな姿は、相とよばれています。個体、液体、気体は、物質の代表的な相です。温度を変えていくと、一般に相は突如変化しますが、これを相転移とよびます。」(38ページ)と定義される。
「全体の性質が要素の性質の単純な合成からわかるというのが線形システムの特徴」(同書16ページ)であるから、需要供給のバランスに応じて値段を上げたり下げたりするのは、水の温度を上げたり下げたりしているのと同じ線形的な考え方である。しかし、それだけでは地域社会の活性化には繋がらない。地域社会の活性化とは、水がお湯になる程度の話ではなく、お湯が激しく沸騰するような「相転移」現象だからである。
勿論、コイン・パーキング場の「棲み分け戦略」や「付加価値戦略」だけで地域社会が活性化するわけではない。しかしそういった店舗・産業を巻き込んだチームワークが、やがて大きなうねりとなって地域全体に波及していくのだ。
非線形科学といえば、以前「スモールワールド・ネットワーク」や「ハブ(Hub)の役割」で論じた複雑系ネットワーク理論も、非線形科学のひとつだった。非線形科学には、これら以外にも興味深い現象を扱った分野が多い。そのひとつに「同期現象」というものがある。
同期現象とは、「二つのリズムが相互作用すると、周期がピタリと一致して歩調関係は少しも乱れない、ということが起こるのです。」(同書129ページ)ということだが、「並行読書法」や「脳について」で述べた「ニューロンの同時発火」もその一例だろう。
同期現象はリズムの相互作用だが、リズムは振動であり、振動はさらに様々な波動を生み出していく。「相転移としての集団同期」(同書148ページ)の項によると、二つの現象(相転移と同期現象)には密接な関連があるという。「生産と消費の等価性」のなかで、「生産と消費の連鎖は波のようなものだ。波は増幅したり減衰したりしながら、社会を縦横に駆け巡る。振幅が大きいほど活気のある豊かな社会だといえる。」と書いたが、これを二つの現象に関連付けて、(コイン・パーキング場のサービスなどの)生産と消費の連鎖が同期すると、相転移現象としての社会の活性化が生まれる、と考えてもよいのかもしれない。
同期現象については、「SYNC−なぜ自然はシンクロしたがるのか−」スティーヴン・ストロガッツ著(早川書房)などにさらに詳しい。
非線形科学とは、「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」(「非線形科学」18ページ)といわれる。「1+1=2」というのが線形的な、比例法則の基本的考え方だとすれば、「1+1=1」、もしくは「1+1=多数」というのが非線形的な考え方である。ビジネスも人という「生きた自然」を相手にしているのだから、このような「数理的な科学」が必要なのだ。今後も、非線形科学のビジネスへの応用についていろいろと考えていこう。
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