今年も、大リーグの鈴木一朗(イチロー)が200本安打を達成した。8年連続の記録達成は容易ではない。新聞記事からデータを集めてみよう。
年度 打率 安打数
2001年 .350 242本
2002年 .321 208本
2003年 .312 212本
2004年 .372 262本
2005年 .303 206本
2006年 .322 224本
2007年 .351 238本
2008年 .310 213本
200本安打を達成した翌日の新聞記事に、同僚のイバネス選手の談話として、イチローは「毎試合、最後の試合にでも臨むかのような準備をする」(9/19/08東京新聞「筆洗」)とあった。このような記録は、常に「心・技・体」の三拍子を最高の状態にしていて初めて達成できるのだろう。野球選手に限らずプロのスポーツ選手というのは、自分の身体だけが頼りという意味で、究極のスモール・ビジネスだ。我々も、日々の覚悟についてイチローから大いに学ばなければならない。
一方、イチローのような選手でも、打率に関しては4割に届かない。10回打席に立ってヒットが打てるのはおよそ3回。このことは、いかにヒットを打つのが難しいかということではあるが、同時に、残りの7回の失敗をいかに次に活かすかということでもある。前回の「失敗学」の話に繋がる話だ。
「失敗学」で紹介した本「失敗学の法則」の中に、「“千三つの”法則」というのがある。「何か新しいことや未知の分野に挑戦しようとすると、九九.七%は失敗します。物事がうまくいく確立は0.三%。」(同書41ページ)ということなのだが、この法則によると、新規ビジネスで成功する確率は、イチローの打率よりもさらに一桁低いことになる。千回打席に立ってヒットが打てるのはたったの3回(!)。ビジネスはイチローのように打率3割とはいかない。それでも決して諦めてはいけないということだ。
イチローについて、オリックス・ブルーウエーブ(当時)の元打撃コーチ、小川亨氏の次のようなコメントがある。「彼は『個』の概念が日本と違う米国の野球に合っていると思う。『個』が最高のプレーを見せれば、チームが勝つと考えるのが米国の野球ならば、チームのために時には『個』を犠牲にさせられる日本の野球よりも、彼は光る。」(7/31/08夕刊フジ)
直接イチローについてではないが、日本の野球全体について野球評論家の豊田泰光氏は、「日本の野球のいいところはノックの前の内野の『ボール回し』などでも手を抜かないことだ。きびきびと速く、相手の胸に正確に投げる。(中略)野球は一つの作業にかかる時間をいかに短縮できるか、という競技なのだ。文字にすれば簡単だが、これを身体で覚えることが肝心だ。日本式の練習もそこに眼目がある。」(4/24/08日本経済新聞「日本式野球がうけるワケ」)と述べておられる。
イチローはおそらく、日・米の野球それぞれの良いところ、
A Resource Planning(R.P.)−英語的発想−主格中心
a 脳の働き
B Process Technology(P.T.)−日本語的発想−環境中心
b 身体の働き
の両方を、高いレベルで追求しようとする稀有な選手なのだろう。200本安打を達成した日彼は、「いつもは晩酌にビールを一本飲むのですが今夜は二本にします」と笑顔で日本人記者に話していた。8年連続の200本安打記録を、瞬間、一本のビールに置き換えてしまうその言やよし。今後さらにこういった彼のユーモア・センスが磨かれることも楽しみにしよう。
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