夜間飛行

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失敗学

2008年10月27日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 「ホームズとワトソンII」のなかで、「資産と市場とのマッチングが取れて戦略が決まったらあとは実行あるのみ。”Plan, Do, See”の”Do”の部分である。いろいろと足りないものや不安なところがあるだろうが、まずはやるしかない。やってみて初めて分かることも多いものである。失敗は次に活かせば良い。」と書いたが、この「失敗は次に活かせば良い」という発想を、体系的に研究するのが「失敗学」だ。

 「失敗学」の創始者は、工学院大学の畑村洋太郎教授である。その著書「失敗学の法則」(文藝春秋)にある失敗の定義は、「人間が関わったひとつの行為の結果が、望ましくない、あるいは期待しないものになること」というものだ。

 普通我々は、失敗の構造を<原因>と<結果>という二つに分けるが、「失敗学」ではこれを、<要因><からくり><結果>という三要素から考える。<要因>とは、失敗を引き起こした行為の「動機」であり、<からくり>というのは、失敗を引き起こした系の「特性」である。「失敗学」では、<原因>の部分をさらに「動機」と「特性」の二つに分解するわけだ。

 「失敗学」とは、<結果>から、<要因>と<からくり>という見えない二つのものを、逆に辿って探っていくということなのである。この<要因><からくり><結果>の関係は「失敗の脈絡」と呼ばれ、事例を通して一般化することによって、予測・類推につなげることができる。

 同書には、「失敗は確率現象である」、「失敗は拡大再生産される」、「“千三つ”の法則」、「課題設定がすべての始まり」、「仮想演習がすべてを決める」、「暗黙知を形式知に変えろ」、「質的変化を見落とすな」、「チャンピオンデータは闇夜の灯台」、「すべてのエラーはヒューマンエラーである」、「新規事業は隣接分野でしか成功しない」、「告発は善である」、「責任追及と原因究明を分けろ」、「遠慮のかたまりが失敗の温床になる」などなど、経営の参考になる叡智が満載されているので、皆さんも是非読んでみて欲しい。

 畑村氏はまた、「起きてしまった事故は社会の共有財産である」(「中央公論」2006年6月号)という文章のなかで、六本木ヒルズ回転ドアや福知山線脱線事故など当時起きた大きな事故について、事故は社会の公共財産である、と指摘されている。一部引用してみよう。

「 大切なのは、おきてしまった事件、事故を社会全体の財産だとする考え方である。次の事件、事故を起こさないための種が与えられたと思って、徹底的に利用すればいい。失敗はマイナスだけをもたらすのではないし、マイナスとみなすことしかできない人は、その経験から何も学ばず、結局同じ失敗を繰り返してしまう。」(同誌151ページ)

事件や事故が社会の公共財産である、というこの考え方は、私が「贅沢の意味」で述べた、「贅沢や特別な体験は、その人とその人を取り巻く社会にとって貴重な財産になる」という指摘と重なると思う。畑村氏のこの文章は、私の電子書籍「僕のH2O」でも一部引用させていただいた。

 「失敗学の法則」の最後に、

『組織変革において重要なのは、組織の構造や制度を変えることではありません。組織内の個人が自立し、その組織の文化そのものを変えていくことなのです。(中略)「自分しか自分を救うことはできない」と気付いた個人が、組織や社会から精神的に自立していき、その自立した個人たちが、最終的には日本を再生することになるはずです。』(同書221ページ)

という指摘がある。「個人の自立」は、自分(の失敗)を冷静に客観視し、それを公(おおやけ)の言葉に残すところから始まる。私は「公(public)と私(private)」のなかで、『そもそも日本語的発想は、「公的表現」を構築する力が弱い』と述べ、「日本語がもうすこし公的表現を構築する力を蓄えれば、日本の社会はもっとバランスの取れたものに成るのではないかと思う。」と書いたが、この「失敗学」の観点からも、日本語による「公的表現を構築する力」が求められているのだ。

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posted by 茂木賛 at 13:33 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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