映画についても書いていこう。この夏観た、宮崎駿監督作品「崖の上のポニョ」(スタジオジブリ製作)はとても楽しい映画だった。特に、初めの方に出てくる海底の場面や、主人公のポニョが大きな波に乗って宗介の家へ向かうところ、家での食事、洪水のあとポニョと宗介がポンポン船で母親リサを探しに行くところなど、心に残るシーンが沢山あった。久石譲氏の音楽も可愛らしい。
映画パンフレットに「海が生き物のようにまるごと動画になったスリリングな作品」と書いてあったが、宮崎監督は今回CGを一切使わず全場面を手で書き起こしたとのこと、迫力の在る場面の数々はその成果なのだろう。まずは傑作の完成を喜びたい。
宮崎駿監督は、自然描写と、自然と共生する主人公を描くのが上手い。なかでも、「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」、「もののけ姫」や「耳をすませば」(脚本・絵コンテ・製作プロデューサー担当)など、日本の自然と女の子を主人公とした作品はどれも素晴らしい。先回「公(public)と私(private)」のなかで、日本語的発想には、豊かな自然環境を守る力が育まれていると書いたけれど、その意味で、宮崎氏は日本語的発想に優れた監督である。だから観客は、作品の構成やストーリーの整合などよりも、その豊潤な映像と音楽に浸れば宜しい。ポニョや宗介のちょっとした動きや表情、舞台となる新浦の街や保育園などの建物など、行き届いたディテールも目を楽しませてくれる。
この映画を製作したのは云わずと知れた株式会社「スタジオジブリ」である。この会社は、2005年に株式会社徳間書店から分離独立したが、それ以前より徳間書店の子会社として運営を続け、2001年に「三鷹の森ジブリ美術館」会館、2008年に保育園を設立、2009年にはアニメーター養成所を開設予定など、本業の映画作成以外でもユニークな活動を展開している。スタジオジブリ・代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫氏は、その著書「仕事道楽」(岩波新書)のなかで、会社について次のように書いておられる。
『 原点は何なのか?
もともとジブリは、宮崎駿・高畑勲の映画を作るために立ち上げた会社です。やりたいことをやるために、会社を作った。でも、一方でジブリ作品がこれだけの実績を作ってくると新しい可能性が見えてくるし、また一方で会社として動きはじめる経営という問題がいやおうなく浮上してくる。このときどう考えるか?
ぼくの答えは簡単です。「いい作品を作るために、会社を活用できるうちは活用しましょう」。これに尽きます。だから、そのために全力を尽くしたい。会社を大きくすることはまったく興味がないんです。「好きな映画を作って、ちょぼちょぼに回収できて、息長くやれれば幸せ」と思っていたし、それはいまでも変わりません。理想は「腕のいい中小企業」です。(後略)』(同書167−168ページ)
宮崎駿・高畑勲という日本を代表する二人のアニメ監督と、優れたプロデューサーを持ち、起業の「理念と目的」が明確な「スタジオジブリ」は、アート業界における日本最強のスモールビジネスかもしれない。
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