『発酵文化人類学』小倉ヒラク著(角川文庫)という面白い本を読んだ。副題は「微生物から見た社会のカタチ」。著者の小倉氏は発酵デザイナーという肩書を持つ行動力に溢れた人。内容について、本のカバー裏表紙の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
味噌、醤油、ヨーグルト、日本酒、ワインなど、世界中にある発酵食品。著者はあるきっかけで、“発酵”に魅せられ、日本だけでなく世界各地に伝承された美味なる食品を求めて旅をした。発酵の仕組みや人間と微生物との関りを学ぶ中で発見したのは、発酵には未来と過去があり、“微生物と人間の共存”は社会を見直すキーワードそのものだったということ。生物学、哲学、芸術、文化人類学などの専門用語を平易に解説。解説・橘ケンチ
(引用終了)
このブログでは以前「発酵食品」の項で、発酵の定義や意義、微生物の分類、発酵の種類などを整理し、発酵食品の特長を3つに纏めたことがある。
1.美味しく健康に良い
2.モノというよりもコト
3.多様性を育む
「モノというよりもコト」というのは、このブログで論じている「モノコト・シフト」(動きの見えないモノよりも、動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まり)と発酵食品との整合を指す。それは又、複眼主義でいうB側(日本語的発想−環境中心)の重要視でもある。小倉氏も、文庫版あとがきの中で、
(引用開始)
僕が何を言いたいのかというとだな。21世紀における日本的実践思想の系譜を継ぐのが発酵ということなんだ。ふたたび訪れた激動の時代に、人の精神や生活の拠り所になり、ものづくりの指針となり、それぞれの土地のアイデンティティとなる、思想運動としての発酵は、醸造家や料理家だけでなく多くの分野の発酵ラバーによって社会に深く根付き、価値が醸されていういくだろう。楽しみだぜ!
(引用終了)
<同書 379ページより>
と書いておられる。参考までに目次(一部省略)も載せておこう。
<はじめに> 発酵をめぐる冒険に、いざ出発!
Column 1 発酵ってそもそも何ぞや?
<PART 1> ホモ・ファーメンタム
Column 2 発酵と腐敗を分かつもの
<PART 2> 風土と菌のプリコラージュ
Column 3 発酵文化の見取り図
<PART 3> 制限から生まれる多様性
Column 4 発酵菌と酵素の違いとは?
<PART 4> ヒトと菌の贈与経済
Column 5 恥ずかしくて人に聞けないお酒の基本
<PART 5> 醸造芸術
Column 6 醸造とは何か?
<PART 6> 発酵ワークスタイル
Column 7 発酵ムーブメントの見取り図
<PART 7> よみがえるヤマタノオロチ
<あとがき> いざ、次なる冒険へ!
小倉氏は微生物と人間の間を自在に繋ぎ、発酵の意味するところを文化論のレベルにまで高めた。本のなかの挿絵や見取り図も愉しい。是非一読をお勧めしたい。
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