前回「16の香り」の項で紹介した『「植物の香り」のサイエンス』塩田清二/竹ノ谷文子共著(NHK出版新書、2024年)に導かれて、『<香り>はなぜ脳に効くのか』塩田清二著(NHK出版新書、2012年)を読んだ。こちらの副題は「アロマセラピーと先端医療」。内容について本のカバー表紙裏の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
いい香りを「嗅ぐ」だけで、重度の認知症患者の症状が改善されたり、がんによる疼痛がやわらぐ――<香り>の成分は、私たちの脳や体内に、どのように吸収され、作用しているのか。西洋医学では太刀打ちできなかった「治りにくく予防しにくい」疾患の画期的な治療方法として、今注目されているメディカルアロマセラピーを、嗅覚のメカニズムや最新の臨床例からわかりやすく解き明かす。
(引用終了)
香りの元となるアロマ(精油)は、前回書いたように気体(香り)として体内に届く以外に、液体としても(血液を通して)体内に届けられる。液体は、経皮投与と経口投与を通して血液に達する。血液からは、直接末梢臓器に届く場合と、一旦脳(大脳辺縁系や視床下部)に届けられる場合とがある。血液と鼻腔から脳に届いたアロマは、大脳を介して感情や情動行動を制御、視床下部を介して自律神経系や免疫系へ、下垂体を介して内分泌系へと作用する。
前回同様、本の目次を掲げておこう。
第一章 臭覚のメカニズム
1.においを感じる「仕組み」を知る
2.なぜ何千種類ものにおいを嗅ぎ分けられるのか
3.においはダイレクトに脳に働きかける
第二章 <香り>が人体におよぼす作用
1.急速に進む「におい」の研究
2.<香り>と医療――メディカルアロマセラピー
3.アロマセラピーの歴史
4.アロマセラピーで用いる精油の薬理作用
第三章 治りにくい・予防しにくい疾患に効く<香り>
1.医療現場で導入が進むアロマセラピー
2.認知症患者の脳を刺激する<香り>
3.アルツハイマー病
4.がん
5.肥満
6.動脈硬化性疾患
7.女性特有の疾患
8.痛み
9.その他の症状への活用
10.小児科疾患
11.「<香り>の医療」の未来と可能性
12.メディカルアロマセラピーの今後の課題
第四章 <香り>の効能を楽しむ
1.精油を正しく使う
2.精油選びで知っておきたいこと
3.精油成分の作用と副作用
香りの研究は奥が深いと思う。第四章に精油の抽出法がいくつか紹介されているが、その一つ「低温真空抽出法」は、今世紀に入って日本で開発された最新かつもっとも効率性の高い抽出法だという。このブログで提唱しているモノコト・シフトでいえば、<香り>はコトであり、複眼主義の対比、
A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)
B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)
でいえばB側と親和性が高い。今後とも塩田氏や竹ノ谷さんなどの日本人による研究に期待したい。
この記事へのコメント
コメントを書く