今年3月にアップした「家族類型から見た戦後日本」の項との繋がりで、フランス家族類型学者エマニュエル・トッド氏の『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書、2022年6月初版)という本を読んだ。まず本の帯表紙とカバー表紙裏、帯裏表紙の紹介文を引用しよう。
(引用開始)
「米国は“支援”することでウクライナを“破壊”している」
現代最高の知性が読み解くウクライナ戦争
「第三次世界大戦はもう始まっている」
本来、簡単に避けられたウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにある。事実上、米露の軍事衝突が始まり「世界大戦化」してしまった以上、戦争は容易に終わらず、露経済よりも西側経済の脆さが露呈してくるだろう。
・この戦争は第二次大戦より第一次大戦に似ている
・戦争の原因と責任は米国とNATOにある
・「手遅れになる前にウクライナ軍を破壊する」が露の目的だった
・反露に固執するポーランドの動きに注意せよ
・ノルド・ストリーム2の停止は米国の悲願だった
・独仏は“真のNATO”に入っていない
・「欧州と日本をロシアから離反させる」が米国の戦略だ
・人口が流出していたウクライナは戦争前から「破綻国家」だった
・ロシア経済よりも西側経済の脆弱さが露呈するだろう
・超大国は一つだけより二つ以上ある方がいい
・米国の“危うい行動”こそ日本にとって最大のリスクだ
(引用終了)
このブログでは、「後期近代」の項で、
-------------------------------------------------
西洋で発祥した「近代」の特徴は、
〇 個の自立
〇 機会平等
〇 因習打破
〇 合理主義
〇 地理的拡大
〇 資本主義
〇 民主政治
といったことだが、これが徹底化した「後期近代」の特徴は、
〇 貧富の差の拡大
〇 男女・LGBT差別
〇 自然環境破壊
〇 デジタル・AI活用、高齢化
〇 グローバリズム
〇 金融資本主義
〇 衆愚政治
となるだろうか(項目の順番同士、ゆるい因果関係・進展関係で結ばれるように配置した)。この間、良いことも沢山あったが、徹底化して煮詰まった結果はあまり美しい状態とはいえない。
-------------------------------------------------
と書き、「近代」から「後期近代」への変遷を、
-------------------------------------------------
個の自立、機会平等、因習打破によって起こされた産業は新たな富を生みだしたが、欲望を肯定し男性優位の競争社会を是とした資本主義は、結果的に富者と貧者とを分けた。キリスト教精神を伴った地理的拡大は、自然を征服の対象としか捉えず、現地国を植民地化・属国化してさらに産業を伸ばした。合理主義による科学の発展は人の寿命を延ばし、富者は家や車、ファッションなどの物質(モノ)によって貧者との差別化を図るようになった。権力を握った富者は、金融と情報の操作を通じて貧者を支配する術を得た。
-------------------------------------------------
と纏め、さらに、
-------------------------------------------------
「後期近代」の先に見える未来の姿は、negativeに考えると、
● 高度監視社会
● 政治の不安定化(監視社会への人々の反撥)
● 災害の頻発(恐慌やパンデミックを含む)
といったものになるだろうが、モノコト・シフトが行き渡り、かつ複眼主義でいうAとBのバランスが取れれば、
● local communityの充実
● 継続民主政治による社会の安定
● 自然環境の保全
といったことが実現する可能性もある。(中略)
暗い未来(前者)と明るい未来(後者)は、モノコト・シフト進行の地域差・時間差、その国(国語)のABバランス、近代化の進み具合や社会構造などに応じて、当面地球上の各地域にモザイク状に分布するものと思われる。最終的にどちらが優位に立つのかはまだわからない。
-------------------------------------------------
と書いた。
フランス人のトッド氏が語る世界情勢は、後期近代の暗い未来の方を予感させる。たしかに「空間(space)と場所(place)」の項でみたセキュリティ管理された空間(space)の増殖、サイバー空間の監視強化、ウクライナ戦争、日本の元首相の暗殺、コロナウイルスの猖獗、などを併せ見ると、世界はnegativeの方向に進んでいるように思える。
とはいえまだ勝負がついたわけではないだろう。「界とハビトゥス」の項などで紹介した『建築家の解体』松村淳著(ちくま新書)にある「街場の建築家」のように、positiveな未来へむけた仕事をしている人も多い筈。暗い未来と明るい未来のせめぎ合いは続いている。後者の実現に向けて何をすべきかさらに考えたい。
この記事へのコメント
コメントを書く