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集団の無意識

2022年07月20日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 先日「家族類型から見た戦後日本」の項で、『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』鹿島茂著(ベスト新書)を参照しながら、戦後日本の家族の問題を考えたが、同書の中で鹿島氏は、自分がトッドの家族類型論に行き着いたもとには、ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940)の「集団の無意識」というコンセプトがあった、と述べておられる。今回は、戦後日本の(集団としての)無意識について、私の考えを整理しておきたい。まず同書から鹿島氏のその部分を引用しよう。

(引用開始)

 私がトッドに興味を持ったきっかけは、「集団の無意識」というものへの関心からでした。
 ドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミンはこの集団の無意識(ただし、ベンヤミンは集団の意識と呼ぶ)について、大体こんなことを述べています。
 個人は一人ひとりはっきりと覚醒しているが、これが集まって集団となると、個人が覚醒しているのとは裏腹に集団は深い眠りに入っていく。とくに、資本主義が発展していくと、眠りは深くなり、集団はそのなかで夢をみる。それは集団の無意識としてさまざまな形象となって現れる。たとえば、パサージュ、万博会場、鉄道駅あるいはモード、広告など。だから、「集団の無意識」を解き明かすには、こうした夢の形象について考えなければならない。
 私が初期に、万国博、デパート、広告を取り入れたジャーナリズムなどを取り上げたのはこうした問題意識からでした。やがて、ベンヤミンから出発して、たどり着いたのが人口動態学でした。人口にこそ集団の無意識が最も強くあらわれると確信し、ルイ・アンリに始まるフランスの歴史人口学者の系譜をたどって行って、トッドに行き着いたわけです。こうしてトッドの著作をすべて読み、家族類型、女性識字率、といったトッドの提示する概念こそが人類の無意識を解く最も重要なパラメターだと今は思っています。

(引用終了)
<同書34−35ページ>

 考えを整理するに当り、戦後日本の無意識をいくつかの項目に分けて検討してみる。そしてそれぞれの最後に夢の形象も選んでみた。

(1)家族類型

 戦後日本の家族制度は、占領軍によってそれまでの直系家族からアメリカ的な絶対核家族に変更された。しかし核家族の価値観は未消化・不十分で、人々のメンタルには、それまでの直系家族的価値観が残っている。儒教的価値観、組織における先輩・後輩関係の重要視、妻よりも夫の不倫への世間的寛容、老後の親の面倒をみる、先祖代々の墓を継承する、などが依然として長男(もしくは長女)の仕事とされているケースなど。しかし直系家族にあった家長の権威と権力は、制度的には消滅している。夢の形象には無能な二世議員、三世議員たちの姿が相応しいだろう。

(2)平和憲法

 戦後日本の無意識のなかに平和憲法が占める度合いは大きいと思われる。戦争は憲法第9条によって回避でき、本土は(安保条約があるから)駐留米軍によって守られる。国民は経済成長に邁進すればよく、国家統治能力(父性)は必要ではない。制度的には官僚が米軍を補佐、政治的には衆愚政治であっても経済が回れば善しとする。夢の形象は広島の原爆ドームか。

(3)言語特性

 「脳における自他認識と言語処理」の項の仮説に基づくと、日本語は母音言語であり、脳内の自他分離機能をあまり刺激しないという。そのことで日本人には個の自立よりも、グループ内の関係性に気を配る傾向が強い(気配り、忖度など)と考えられる。主格中心の英語的発想に比べて、日本語的発想は環境中心で、空間重視・所有原理の男性性よりも、時間重視・関係原理の女性性が優位。華やかさや粘り強さはあるが、全体を俯瞰し適材適所を構築する力は強くない。夢の形象はサブカルのかわいいキャラクターたち。

(4)歴史認識

 日本は万世一系の天皇を頂点とする神の国である。これは明治維新以降強化された歴史認識だが、直系家族的価値観と並び、戦後も根強く人々の無意識下に眠っている。だから災害時などに人々はよく神に祈る(苦しい時の神頼み)。神道は教義を持たないから、他の新しい宗教にも寛容だ。夢の形象は神社の鳥居だろうか。

 以上、戦後日本の無意識を4項目に整理したが、無能な政治家、原爆ドーム、ゆるキャラ、神社の鳥居、といった夢の形象を繋いでみると、戦後日本の無意識の内に、国家統治のための理念的・戦略的能力を示すような形象が見当たらない。いまだに国家運営を(日米安保と日米合同会議などによって)米軍に委ねて平気でいられるメンタルは、無能な政治家を選挙で国会に送り込み、過ちは繰り返しませぬと唱え続け、テレビの漫才やゆるキャラに熱中し、事あるごとに神社にお参りする人々の「集団の無意識」が為せる業(わざ)なのだ。国家統治能力(父性)の不在。しかしこれからの時代、今のままで果たして日本はやってゆけるのだろうか。この問題を解決しなければ、いかなる政治・憲法議論もただの空論でしかないと思うがいかがだろう。

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posted by 茂木賛 at 10:19 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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