「人を褒めるということ」のなかで脳の研究について触れたが、ここで私の脳についての興味を整理しておこう。
一つ目は脳と身体機能との関係である。脳がどのように臓器をコントロールし、また臓器がどのように脳へフィードバックをかけるのか、感覚器官と臓器とを結ぶ神経やホルモンの役割、遺伝子と行動様式との関係などなど。ヒトが進化と共にどのような能力を獲得し、また失ったのかということにも興味がある。「内臓が生みだす心」西原克成著(NHKブックス)によると、脊椎動物の進化には大きく分けて三つの段階があったという。第一段階は、海中移動による「口肛分離」、第二段階は、上陸劇による「造血の骨髄腔への移動」、第三段階は、哺乳類の誕生による「歯の発達」。いずれの段階も重力が強く影響を及ぼしているという。
二つ目は、脳と言語について。知覚システムと環境との相互作用については以前「アフォーダンスについて」で述べたが、人は言葉(含数字)によって世界を理解し、自ら思考し、また他人と意思を通じ合う。知覚システムと脳と言葉との関係はさらに興味深いテーマである。人はどのように言葉を獲得し、使いこなし、また逆にそれに縛られるのか。「日本人の脳に主語はいらない」月本洋著(講談社選書メチエ)によると、「人間は言葉を理解する時に、仮想的に身体を動かすことでイメージを作って、言葉を理解している」(4ページ)という。
三つ目は、脳内の情報伝達の仕組みについてである。以前「並行読書法」のなかで、「並行読書法の効用は、脳のニューロン・ネットワークから見ると、まるでスモールワールドのような話だが、ニューロンの同時発火という同期現象から考えると、むしろ熱力学や波動理論と関係がありそうだ。」と書いたが、「脳のなかの水分子」(紀伊國屋書店)の著者中田力氏によると、脳にはニューロン・ネットワークの他にもう一つ高電子密度層があり、その仕組みが人の「内因性の賦活(自由意志や創造力、ひらめき)」を支えているという。
以上挙げた三つ、脳と身体、脳と言語、脳内の情報伝達の仕組みを、これまでの時間論(「アフォーダンスと多様性」、「集団の時間」)に沿ってそれぞれ積分すると、都市と自然、都市と言語、都市の情報伝達の仕組み、となる。脳の研究は即ち社会(都市と自然)の研究に直結している。
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