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経営の停滞

2018年03月19日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 前回「反転法」の項で、新井白石や荻生徂徠の認識法(列挙と相対化)について引用し、“反転法は非体系的だから国家統治には向かないのだろう”と書いたが、実際、白石や徂徠の幕府への関与は、「徳川時代の文化興隆」で書いた「朱子学の停滞」を払拭するほどの力は持たなかったようだ。『徳川将軍十五代』大石学監修(じっぴコンパクト新書)から「第3章 幕府の転換期―吉宗・家重・家治・家斉・家慶の時代―」の冒頭部分を引用する。

(引用開始)

《第3章のあらすじ》
 八代将軍吉宗から十二代家慶に至る江戸時代中期は、まさに改革に時代となる。幕府財政は悪化し、いよいよ破たんの危機を迎えていた。こうしたなか登場した吉宗は、質素倹約をモットーに享保の改革を断行。米相場に腐心しながら、財政再建に取り組んだ。
 吉宗により財政は一時持ち直したが、ほどなく悪化。十代家治の時代には田沼意次が重商主義を掲げて経済活発化を企図した。しかし、天災と貧富の差の拡大による不平が原因となって挫折。松平定信の寛政の改革、水野忠邦の天保の改革も時代に逆行するばかりで、失敗に終わる。十一代家斉の時代には江戸庶民を担い手として化政文化が花開いたが、幕府崩壊の足音が忍び寄っていた。

(引用終了)
<同書 118ページ(フリガナ省略)>

B側主体の文化は花開くが、A側主体の国家経営は下り坂。ここでいうA、Bは勿論複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心 
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

におけるそれぞれの項目を指す。列島のA側は長く漢文的発想が担っていたが、戦国時代以降、漢文的発想と西洋語的発想とは共存、その後長い時間をかけて漢文的発想は英語的発想に置き換わってゆく。複眼主義では両者のバランスを大切に考える。

 会社であれ国家であれ、組織経営の革新にはまずその組織理念の再確認が必要だ。以前「国家の理念(Misiion)」の項で、近代における国家の理念というものを「国家がどのような分野で、どのように世界へ貢献しようとするのかを表現した声明文」としたが、近世にスタートした徳川幕府にそのような発想はなかったかもしれない。しかし、「経営の落とし穴」で要約した保科正之の、

〇 戦国は武断の世であった
〇 天下統一を図った秀吉が滅んだのは武をのさばらせたから
〇 家康は黄金で武を止め、朱子学によって下克上を抑えた
〇 その黄金がやがて尽きる
〇 これからは天理によって武家政治を続けたい
〇 その一歩として暦づくりを我々の手で行いたい
〇 これまでの占星術による暦づくりは公家が握っていた
〇 文治を推し及ぼす新しい暦づくりは武家が管理したい

といった統治理念はあった筈だ。徳川中期の時点で幕府に必要だったのは、財政再建だけではなく、徳川初期の(保科らの)理念を再確認した上で、下克上を抑えるために導入した朱子学をどのように発展させて(あるいは破棄して)、西洋列強の進出に抗しうる「統治理念」を構築するかである。しかし当時の幕府にはこれができなかった。先日『百花深処』<宗教・思想基本比較表>で、

<徳川朱子学>
「対象」:日本国
「至高」:天皇
「教義」:神仏儒などの宗教
「信仰」:教義を守る(儒教の教義を守る)
「特徴」:政治による集団救済。因果律。

と記したが、彼らはこの正学の範囲を自ら打ち破ることができなかった。

 「反転法」の項で、“徳川時代末期、西洋の英語的発想=弁証法が漢文的発想に置き換わってゆくと、蘭学や陽明学といった別のA側思想が力を付け幕府政策に影響力を持ってくるが、それまでの間、平和が続いた社会は全体的にB側への傾斜が強かったというわけだ”と書いたけれど、徳川幕府中期のA側は、財政再建で目いっぱいで、あるいは西洋の力を過小評価して、あるいは仲間内の諍いで、「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」状態になっていった。ふたたび『徳川将軍十五代』から「第四章 江戸幕府崩壊―家定・家茂・慶喜の時代―」の冒頭部分を引用しよう。

(引用開始)

《第4章のあらすじ》
 嘉永六年(一八五三)六月、ペリー来航の衝撃が日本を襲う。海が日本と諸外国を隔てていた時代は今や過去のものとなった。十二代将軍家慶は、黒船来航の混乱のなかで死去し、健康面に不安を抱える家定が将軍職を継いだ。すると、幕府のあり方を巡り、家定の継嗣問題が勃発。幕閣や諸藩は一橋・南紀の二派に分かれて争った。
 この争いは十四代家茂の将軍就任によって終息したが、その後は朝廷を巻き込んで長州や薩摩といった雄藩が政治に対する発言力を強めるなか、外圧に屈し続ける幕府の求心力は低下し、いよいよ討幕の機運が高まっていく。風雲急を告げる幕末動乱の果てに徳川幕府はいかに終焉の時を迎えたのか?

(引用終了)
<同書 184ページ(フリガナ省略)>

ということで、国家経営の革新は幕末以降にまで持ち越されることとなったのである。

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posted by 茂木賛 at 10:21 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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