必要あって江戸時代に関する文献を各種読んでいる。最近読んだ『江戸のベストセラー』清水惠三郎著(洋泉社)という本は、江戸時代に流行った書物12冊を取り上げて、著者の略歴や本の内容、出版の背景や出版社の事情などを記したもの。その12冊を目次順(出版年順)にみると、
『嵯峨本』角倉素庵 <慶長9(1604)年頃>
『塵劫記』吉田光由 <寛永4(1627)年頃>
『好色一代男』井原西鶴 <天和2(1682)年>
『武監』松会三四郎 <貞享2(1685)年>
『曽根崎心中』近松門左衛門 <元禄16(1703)年>
『養生訓』貝原益軒 <正徳3(1731)年>
『解体新書』杉田玄白 <安永3(1774)年>
『吉原細見』蔦屋重三郎 <天明3(1783)年>
『東海道中膝栗毛』十返舎一九 <享和2(1803)年>
『南総里見八犬伝』滝沢馬琴 <文化11〜天保12(1814〜41)年>
『東海道四谷怪談』鶴屋南北 <文政8(1825)年>
『江戸繁昌記』寺門静軒 <天保3(1832)年>
ということで、有名どころが並んでいる。
著者の清水氏は雑誌プレジデントの元編集長。ジャーナリスティックな目で江戸時代の出版活動を概観しているところがユニーク。本帯表紙には、“武家名鑑、算術指南書、健康読本、江戸タウンガイド、ファンタジー小説、ホラー小説、生活実用書、遊郭風俗ガイド……、発禁処分続出!現代に通じるヒットの秘密!!”とある。
それぞれ章の巻頭には、『嵯峨本』:洛中有数の素封家にして知識人が創り出した「豪華本」への憧憬、『塵劫記』:技術大国ニッポンへの道を拓いた和算入門のバイブル、『好色一代男』:稀代の好色男を狂言回しに江戸の享楽を活写したベストセラーの嚆矢、といったキャッチが掲げられている。『武監』:幕府体制の実用書、代表的な江戸土産でもあった江戸の武家名鑑、『養生訓』:読み継がれること300年!「健康書」の超ロングセラーはいかにして生まれたか、『解体新書』:近代医学の曙となった江戸のプロジェクトX、『ターヘル=アナトミヤ』翻訳、『東海道中膝栗毛』:衆道の凸凹コンビが繰り広げる珍道中が大ヒットした理由、『南総里見八犬伝』:終われないのは江戸の昔も同じ!元祖ドラゴンボールの憂鬱、『東海道四谷怪談』:200年の時空を超えて、「平成の夏」を戦慄させる江戸のモダン・ホラー、『江戸繁昌記』:貧乏儒者のコンプレックスが生んだ漢文専門書のベストセラー、と続く。他の文献と併せ江戸社会を知る手掛かりとしたい。
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