夜間飛行

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空き家問題 III

2017年02月07日 [ 街づくり ]@sanmotegiをフォローする

 空き家問題の考察をさらに続けたい。ここでは『ひらかれる建築』松村秀一著(ちくま新書)によって、空き家活用を含むこれからの街づくりについて考える。副題に“「民主化」の作法”とある。松村氏は東大大学院工学系研究科建築学専攻教授。例によってまず新聞の書評を紹介しよう。

(引用開始)

生活者の想像が未来を開く

 本書はケンチクやタテモノからの卒業をうたう。ケンチクとは建築家の先生が設計する芸術的な作品。一方、タテモノとは経済的な営為から生産される通常の建物。東京のごちゃごちゃな街並みこそが民主主義の風景だと、海外の研究者から指摘されたことを受けて、著者は近代以降の建築の歴史を民主化の3段階でとらえなおす。
 第一世代は、工業化・規格化の発展によって同一の安い箱を多く生産した。第二世代は、人々が居住環境の形成に関わるシステムや地域生活の再評価など、選択の多様性を提示した。著者の専門は建築構法であり、この二つの世代の内容はわれわれが暮らす環境の背景を理解するうえで興味深い。例えば、釘の量産化がツーバイフォー構法をもたらしたこと、戦後の鉄鋼業が新たな市場を求めてプレハブ住宅に注目したこと、使用者が参加するデザイン手法の系譜、大工・工務店、ハウスメーカー、DIY,セルフビルドの状況など、研究成果に基づく知見が披露されている。
 1957年生まれの著者にとって第一世代はすでに成し遂げられた過去、第二世代はその活動に並走した現在形の出来事だったが、第三世代のリノベーションはもっと若い人やアートなど建築以外の領域が切り開く、未来へのムーブメント。ゆえに、中学校をアートセンターに改造したアーツ千代田3331やオフィスの居住空間への転用など、象徴的なエピソードをもとに期待を込めてルポルタージュ風に書かれている。
 日本はすでに膨大なタテモノをもち、今や大量の空き家が問題だ。そこで著者は、箱から場所へ、あるいは生産者から生活者へ、という転換を示し、使い手の想像力が重要になると説く。小難しいケンチクと違い、リノベーションは専門以外の様々な人が参加できるプラットフォームになりうる。これは建築の職能が変わることで豊かな生活がもたらされる希望の書である。(評・五十嵐太郎)

(引用終了)
<朝日新聞 11/27/2016>

本のカバー表紙裏の紹介文も引用しておこう。

(引用開始)

ケンチクとタテモノ――。近代的夢の象徴としてイメージされてきたケンチクと経済行為として営々と生産されてきたタテモノ。一九七〇年代半ばに「建築家」を志して以来、つねにそのあいだで葛藤してきたが……。二一世紀、局面は大きく変わった――。居住のための「箱」から暮らし生きるための「場」へ。私たちの周りに十分すぎるほど用意された「箱」は今、人と人をつなぎ、むすぶ共空間<コモン>を創造し、コミュニティとなる。これからあるべき「ひらかれる建築」の姿を、「民主化」をキーワードに、関わった「三つの世代」の特徴と変遷から描き出す。

(引用終了)

本の章立ては次の通り。

<はじめに> 建築で「民主化」を語る理由
序章  民主化する建築、三つの世代
第1章 建築の近代――第一世代の民主化
第2章 建築の脱近代――第二世代の民主化
第3章 マスカスタマイゼーション――第二世代が辿り着いた日本の風景
第4章 生き方と交差する時、建築は民主化する
第5章 第三世代の民主化、その作法

 「箱」から「場所」へということで、この本は、建築・街づくりにおける「モノコト・シフト」を説く内容となっている。その意味で論点は「空き家問題をポジティブに考える」の項と重なるが、本書は建築の専門家からの提言である。モノコト・シフトとは、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、20世紀の大量生産システムと人の過剰な財欲(greed)による「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まりを指す。

 「空き家問題 II」の項で野澤さんが「住宅過剰社会」と呼んだ問題を、松村氏はポジティブに「空間資源大国」と呼び、第一世代、第二世代を通して蓄積された大量の住宅=「箱」を、みんなが使う「場所」として蘇らせるために何ができるかを問う。

(引用開始)

 健康で近代的な暮らしがおくれるような建物=「箱」を人々に届けるために、優れたプロトタイプを案出し、量産技術で遍く実現することを目指して専門家たちが邁進した第一世代の民主化。その目標がある程度達成された時点で、第一世代が軽視してきた人々の個性や「箱」の置かれる地域の特性等を考慮の対象とすることの重要性を認識し、専門家たちが第一世代の基盤だった「近代」志向から脱する、或いは多様化という言葉に代表されるような市場の変化に適応することを目指した第二世代の民主化。そして、二一世紀の日本では、二つの世代を通じて蓄積されてきた十分な量の「箱」と技術や知識を、それぞれの人が、自身の生き方を豊かに展開する「場」創りに利用する第三世代の民主化が始まっている。本書の中で述べてきたことを概括するとそいうことになる。

(引用終了)
<同書 182ページ>

著者は第5章で第三世代の民主化の作法として、

〇圧倒的な空間資源を可視化する
〇利用の構想力を引き出し組織化する
〇場の設えを情報共有する
〇行動する仲間をつくる
〇まち空間の持続的経営を考える
〇アレとコレ、コレとソレを結ぶ
〇庭師を目指す
〇建築を卒業する
〇まちに暮らしと仕事の未来を埋め込む
〇仕組みに抗い豊かな生を取り戻す

といった内容を提言する。庭師を目指すというのが楽しい。

 この本では、都市計画法や住宅政策の問題はあまり語られない。東京のごちゃごちゃな街並みこそが民主主義の風景だというデルフト工科大学教授の考えに共鳴するくらいだから、著者は政府の役割にはあまり期待しておられないのかもしれない。モノコト・シフトの時代、人々の気持ちは、複眼主義の、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

という対比のうちB側に傾斜する。複眼主義ではAとBのバランスを大切に考えるが、建築の専門家である著者は、政府の政策舵取りの欠如(A側の欠如)については業界常識として織り込み済みなのだろう。しかしA側の仕事である理念・政策がいい加減だと、第三世代の民主化も無秩序状態に陥りかねない。個人レベルでも、個の自立(A側)と共生への志向(B側)とのバランスが大切だと思う。話はここで「流域思想」、「庭園・芸術都市」といった街づくり理念の問題へと戻ってくる。これからも研究を続けたい。

 さて、建築の専門家からの提言といえば、「みんなの家」、「みんなの家 II」と辿ってきた、建築家伊東豊雄氏の最新著作『日本語の建築』(PHP新書)もまた、建築家による「街づくり」の提案である。タイトルからして複眼主義対比のB側志向といえる。本カバー表紙裏の紹介文を引用しよう。

(引用開始)

 壁、壁、壁……。東北の被災地で巨大な防潮堤を成立させている「安全・安心」という堅固な壁は、いまこの国のいたるところに聳え立つ。「せんだいメディアアーク」「みんなの森ぎふメディアコスモス」で壁を立てない、自然の中にいるような空間をつくり、「みんなの家」から震災後の人と人をつなぐ場所を考え、今治「大三島」を日本一美しい島にしようと島の人たちと取り組む。「管理」と「経済」の高く厚い壁に取り囲まれ、グローバリズムの海に溺れる現代に、場所と土地に根差す「日本語の建築」で挑む。建築家が建築家であるために、いま、なしたいことと、必要なこと。

(引用終了)

本の章立ては以下の通り。

<はじめに>
序章  グローバル経済とバーチャルな建築
第一章 新国立競技場三連敗
第二章 「管理」と「経済」の高く厚い壁――東日本大震災と「みんなの家」
第三章 「時代」から「場所」へ
第四章 東京と『東京物語』
第五章 「日本語」という空間から考える
第六章 大三島にて
第七章 「場所」から生まれる想像力
終章  熊本地震と「くまもとアートポリス」
<おわりに>

「日本一美しい島」という理想を掲げる大三島プロジェクトの先行きを楽しみにしたい。

 街づくりの話は、「限界集落は将来有望」の項で紹介したようなフィクションによる考察も面白いと思う。私も過日『記号のような男』という街づくり(と山岳信仰)の小説を書いた。併せてお読みいただけると嬉しい。

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posted by 茂木賛 at 14:22 | Permalink | Comment(0) | 街づくり

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