『電車をデザインする仕事』水戸岡鋭治著(新潮文庫)という本を読んだ。水戸岡氏は「ななつ星in九州」などの豪華列車デザイナーとして有名。副題には「ななつ星。九州新幹線はこうして生まれた!」とある。本の帯(表紙)とカバー裏表紙の紹介文を引用しよう。
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「JR九州」大躍進の秘密は、乗客をワクワクさせる「物語力」にあった!
未だかつて無いものを生み出す発想術・仕事術
豪華寝台列車なのに予約はいつも満員の「ななつ星in九州」。「縦長の目」が印象的な800系新幹線「つばめ」。斬新で魅力的なデザインはどのようにして生み出されたのか。「最高レベルのものを提供し、お客様に圧倒的な感動を五感で味わってもらう」というコンセプトを軸に、JR九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車が大成功した経緯と今後について語る、プロデザイナーの発想術。
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本書には、水戸岡氏のイラストレーター・デザイナーとしての哲学や、鉄道デザインや公共デザインにおける現場の実際が、具体的にかつ余すところなく描かれている。デザイン系で起業を目指す人にお勧めの一冊だ。
このブログで書いているモノコト・シフトでいえば、「ななつ星in九州」による旅は、“「皆と同じ」から「それぞれのこだわり」へ”というトレンドの究極的体験といえるだろう。水戸岡氏もこのトレンドを敏感に感じ取っおられるようだ。前回「モノコト・シフトの研究 IV」で、
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思考から、自己の身体や自分がいる場所の力を外さないこと。対象を数としてではなくエネルギーとして捉えること。さまざまなコトを通してそのエネルギーを感じること。そういうモノコト・シフトの本質を理解した人が、これからのビジネスをリードしてゆく筈だ。
事象は固有時空層を成してすべて繋がっている。モノ(物質)に対しても、人はその中に潜むエネルギーを感じ取ろうとするだろう。効率よりも効用。近代以前、人々はずっとそうしてきた。日本人の「もったいない精神」もそういう気持ちの表れだ。しかし近代以降、とくに二十世紀の大量生産システムが世の中を席巻して以来、人はモノの効用よりも利用効率を優先するようになった。モノコト・シフトが進む地域・階層では、人は効率よりもまた効用を優先するようになるに違いない。
(引用終了)
と書いたけれど、水戸岡氏もそのデザイン哲学の項で、「素晴らしいデザインは素晴らしいビジネスを生み、素晴らしいビジネスを生むことで素晴らしい暮らしを生み出す」という言葉を紹介しそれがデザインというものの在り方を示していると述べたあと、「事象の繋がりへの気付き」に言及しておられる。
(引用開始)
さらに、この言葉から学べる教訓は、世の中のはすべての物事が繋がっていて、繋がっていないものはひとつもないということです。それを理解するには、先ほど述べた鳥瞰という視点が必要です。
ところが多くの人間はデザインを含め、すべての仕事を繋げてしまうと厄介だからといって切り離してしまう傾向にあります。その代表例がまさに私たちが生きている縦割り社会であり、縦割り企業ということです。国家も政治家も専門に分けてしまいますが、意識レベルの高い国においては、専門に分ける必要がないので、総合的かつ創造的な社会や企業をデザインすることができます。鳥瞰的な視野で総合的に物事を進めることができれば、創造的な人間が増えていく土壌が生まれます。それが、バランスの良い社会をつくりだすのです。
(引用終了)
<同書 34−35ページ>
JR九州は今年の10月に東京証券取引所第一部へ上場し、国鉄分割30年目にして完全民営化を果たした。水戸岡氏の貢献も大きかったに違いない。本書の解説にはJR九州会長の文章が載っている。
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