以前「流域思想 II」の項で、「自然の理に適った流域ごとの水力発電・供給システム」について、『本質を見抜く力』養老孟司・竹村公太郎共著(PHP新書)から、
(引用開始)
竹村 日本はどうしたらよいのでしょうか。私はやはり、エネルギー源を日本列島内で分散化すべきだと思います。「国土の均衡ある発展」などという建前ではなく、各々の地方地方が自立したエネルギー獲得システムと食料自給システムを作らないといけない。そうやって自立した地方には、今後必ず、都会から逃げ出す人が出てきます。地方にそのときの受け皿になってもらいたいです。
たとえば電力会社が大発電所を作り、全国津々浦々に送電するのは無駄が多い。そこで、たとえば過疎地は地元の川で水車を回してエネルギーを作ることにする。夜は水車で発電し、余った電気で水を分解して水素を作り、昼間はその水素をチャージする。そんな新しい文明を、国家として構築することが大事だと思います。(後略)
(引用終了)
<同書43−44ページ>
という言葉を紹介した。2010年5月のことだ。21世紀の日本の街づくりにとって欠かせないコンセプトとしてその詳細を知りたいと願っていたが、あれから6年経った今年(2016年)9月、『水力発電が日本を救う』竹村公太郎著(東洋経済新報社)が出版された。氏が上の自説を敷衍したもので、水力発電のメリットや、中小水力発電の詳細が書かれている。待望の書というべきである。
副題は「今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる」。竹村氏は元国土交通省河川局長、「地形と気象から見る歴史」の項で紹介したように、地形と気象を長く研究されてきた方で、世界でもまれなその(地形と気象)条件から、日本は水力発電でエネルギー大国になれると論じておられる。本の目次を紹介しよう。
(引用開始)
序 一〇〇年後の日本のために
第1章 なぜ、ダムを増やさずに水力発電を二倍にできるのか
第2章 なぜ、日本をエネルギー資源大国と呼べるのか
第3章 なぜ、日本のダムは二〇〇兆円の遺産なのか
第4章 なぜ、地形を見ればエネルギーの将来が分かるのか
第5章 なぜ、水源地域が水力発電事業のオーナーになるべきなのか
第6章 どうすれば、水源地域主体の水力発電は成功できるのか
終章 未来のエネルギーと水力発電
(引用終了)
利水と治水というダムの目的、「特定多目的ダム法」という古い法律の存在、河川法改正の必要性(「環境保全」だけでなく「川のエネルギー開発」をその目的に加えるべき)、グラハム・ベルの先見性、薄いエネルギーと濃いエネルギー、ダムは半永久的に壊れない、逆調整池ダム、嵩上げによって古いダムを有効利用する、水源地域のための小水力発電、水力専門家集団による支援体制、SPC(スペシャル・パーパス・カンパニー:特定目的会社)の体制、事業保証体制、目的は拡大ではなく持続可能性、水(水素)でつくる燃料電池の可能性などなど、その主張と論旨は明快だ。竹村氏の言葉を「終章」から引用したい。
(引用開始)
集中から分散へ
過去の近代化においては、効率性が最優先された。
効率性は、人の効率性、時間の効率性、場所の効率性で構成される。
人の効率性は、マニュアルの画一性で成し遂げた。
時間の効率性は、エネルギーを使ったスピードで成し遂げた。
場所の効率性は、都市に集中することで成し遂げた。
過去のエネルギー分野での効率性も、画一性と、スピードと、場所の集中で成し遂げられた。
一〇〇年後、二〇〇年後、水のエネルギーは、近代化を成し遂げたエネルギーと反対になっていく。
全国各地に流れる川は、画一性を持たない。川のスピードは地形に依存している。全国各地の水を、一か所に集中させることもできない。
この水力発電で最も重要な点が「分散性」なのだ。
日本全国のどの場所にも、水がある。日本全国どこの水源地域でも、水の力で電気を造れる。
つまり、水素の製造と貯蔵技術が進展すれば、日本全国の水源地でエネルギーが手に入ることになる。
水という原材料は、一切輸入することはない。
すべて、日本国産の原料と技術による、持続可能なエネルギーが手に入るのだ。
都市が水源地域に手を差し伸べるとき
日本の近代化では、都市は水源地の犠牲を強いて、エネルギーを送ってもらい発展してきた。
ポスト近代の未来の日本では、その水源地域が、再び日本のエネルギー基地となっていく。
しかし、二一世紀の今、水源地域は過疎化で悩み、森林の荒廃で苦しんでいる。
近代からポスト近代に移行するこの端境(はざかい)期の今、安全で、快適で、資金力のある都市は、省力水力発電で水源地域に手を差し伸べるべきであろう。
近代化の中で巨大ダムを造ってきた私たちダム技術者だちの心からの願いである。
(引用終了)
<同書 188−190ページ(太字は見出し)>
このブログでは、これからの日本の街づくりに必要なコンセプトとして、「庭園・芸術都市」(庭園や里山、邸宅美術館や芸術劇場を持つ流域都市)を提唱しているが、中小水力発電は、その重要なエネルギー供給源となるに違いない。
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