夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


宗教から芸術へ

2016年06月21日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 宗教学者島田裕巳氏の『宗教消滅』(SB新書)という本を興味深く読んだ。副題に「資本主義は宗教と心中する」とある。本の帯裏表紙から著者の現状認識を引用しよう。

(引用開始)

イスラム国、
無縁社会、
ゼロ葬―――
宗教崩壊は、他人事ではない!
●仏教――真言宗の本山である高野山で参拝者が4割減!
●カトリック――フランスでは空っぽの教会が次々とサーカスに売却
●プロテスタント――韓国で現世利益だけを訴える偽キリスト教が跋扈
●イスラム教――人口増による世俗化で原理主義との対立が激化
●創価学会――婦人部の会員が高齢化し集票能力に翳り
●幸福の科学――若い世代に受け継がれずに90年代の信者が高齢化
●アメリカ――広がるのは病気治しの奇跡宗教ばかり
●中国――バチカン非公認のカトリックを政府が弾圧

(引用終了)

島田氏はこういった各宗教の状況を丁寧に辿りながら、高度資本主義社会はやがてあらゆる宗教を消滅させるだろうと予測する。本のカバー裏表紙には、

(引用開始)

高度資本主義が、世界の宗教を滅ぼす!

日本社会において、新宗教が衰退しているからといって、多くの人は何の問題も感じないかもしれない。しかし、新宗教の教団が、皆、戦後に急速に拡大していったことを考えると、そこには日本社会が変容をとげようとする姿が見えてくる。しかも衰退しているのは新宗教だけではない。仏教だろうと神道だろうと、やはり衰退の兆しが見える。なぜ、そうした事態が生じているのか。これから考えようとするのは、極めて重要な問題である。

(引用終了)

とある。氏はこのような問題意識から、さまざまな国や地域の宗教をめぐる状況を調べるなかで、そこに予想以上の大きな変動が起っていることがわかってきたという。高度資本主義による伝統的な社会システムの崩壊、個人が共同体とは無縁な生活を送る状況などなど。詳しくは本書をお読みいただきたいが、「あとがき」から氏の言葉を引用したい。

(引用開始)

 なぜそうした変化が起っているのか。
 そこには、資本主義のおかれた今日的な状況が深くかかわっている。東西の冷戦が終焉を迎えたときには、資本主義が世界全体に広まり、それによって自由で豊な社会が各地に拡大されていくと信じられた。
 しかし、冷戦の崩壊がもたらした経済のグローバル化は、必ずしも豊かさだけをもたらしたわけではない。経済格差や貧困、そして、異なる宗教を信仰する人々のあいだでの対立や抗争をももたらした。
 経済は無限に発展し続けるものではない。ある程度の豊かさが実現されれば、高度な発展には終焉がもたらされる。資本主義は、市場を拡大することで発展していくものだが、市場の拡大にはどうしても限界があるからだ。
 経済と宗教とは深く連動している。とくにそのことは、現代の社会において明確になってきたのかもしれない。宗教は、日本人の多くが考えるように、たんにこころの問題ではなく、社会の動きと密接な関係を持っているのだ。
 経済学の分野では、昨今、資本主義の終焉ということが強く言われるようになってきた。資本主義が終焉を迎えるということは、それと深く連動してきた宗教にも根本的な変化がもたらされることを意味する。それはどうやら、宗教の消滅という方向にむかいつつあるのである。
 資本主義の先に何があるのか。それを考える上においても、宗教の動向を見ていくことは不可欠である。本書が人類社会のこれからを考えていく上で、少しでも役立てば幸いである。

(引用終了)
<同書242−243ページ>

 この先に何があるのか。このブログでは、21世紀はモノコト・シフトの時代だと書いている。モノコト・シフトとは、「 “モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、二十世紀の大量生産システムと人の過剰な財欲による「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まりを指す。動きのない「モノ」は、複眼主義の対比、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

におけるAと親和性が強く、動きのある「コト」はBと親和性が強い。複眼主義ではAとBのバランスを大切に考える。

 宗教に引き寄せてこの対比を考えてみると、一神教と多神教の違いはあるが、宗教における「教義」の部分は、もっぱらAの側で理論構築され、感性が支配する「信仰」部分は、おおむねBの側と親和性が強い。

 普通の宗教はAとBのバランスの上に築かれるもので、独善的な教義や行き過ぎた信仰行為は抑制されるが、島田氏のいう宗教崩壊とは、このバランスが崩れた状態を指すだろう。

 モノコト・シフトの時代は、Bの考え方の比重が高まるわけで、時として過激な熱狂=信仰が社会を揺り動かす。このことは「熱狂の時代」の項で書いた。熱狂は外に向かって先鋭化するとテロなどを起こす。一方それについていけない人々の一部は、熱狂心をゲームやアイドルなどに振り向ける。それが行き過ぎると殺傷事件などを引き起こす。

 この先の時代、AとBのバランスをどう取っていくか。参考になることが『芸術立国論』平田オリザ著(集英社新書)に書いてある。この本は2001年初版だからもう15年前に出たものだがその内容は今尚新鮮だ。本のカバー裏の紹介文を引用する。

(引用開始)

 日本再生のカギは芸術文化立国をめざすところにある!著者は人気劇作家・演出家として日本各地をまわり、また芸術文化行政について活発に発言する論客として知られる。精神の健康、経済再生、教育等の面から、日本人に今、いかに芸術が必要か、文化予算はどう使われるべきかを、体験とデータをもとに綿密に検証する。真に実効性のある芸術文化政策を提言する画期的なヴィジョンの書。これは芸術の観点から考えた構造改革だ!

(引用終了)

 演劇など「芸術」による立国。この考え方は日本だけでなくこれからの(宗教が消滅する)世界に通用すると思う。近代以前、さらに近代に入ってからもしばらく、社会はAとBのバランス統治を、健全な宗教に求めてきた。しかし伝統的共同体が崩壊する一方で科学が発展し、いろいろな事象の因果関係がより高解像度で見えてくると、宗教に代わる、より理知的なバランス統治の仕組みが必要になってくる。これまでの「近代家族」の枠組みは、

1. 家内領域と公共領域の分離
2. 家族構成員相互の強い情緒的関係
3. 子供中心主義
4. 男は公共領域・女は家内領域という性別分業
5. 家族の団体性の強化
6. 社交の衰退
7. 非親族の排除
8. 核家族

であり、これからの「新しい家族の枠組み」は、

1. 家内領域と公共領域の近接
2. 家族構成員相互の理性的関係
3. 価値中心主義
4. 資質と時間による分業
5. 家族の自立性の強化
6. 社交の復活
7. 非親族への寛容
8. 大家族

である。これからの共同体の紐帯は、情緒的・宗教的なものから、より理性的なものになっていく筈だ。理知的といっても複眼主義でいうAの側だけでなく、Bの側にも充分訴えかけるもの。人々の熱狂をも吸収できる仕組み。それはAとB双方に親和性を持つ「芸術」以外にないのではないか。芸術による街づくり。それがこれから求められると思う。先日『百花深処』<二冊の本について>の項でみた、「邸宅美術館」とも通ずる考え方である。

 尚、平田氏には、最近の著作とし『下り坂をそろそろと下りる』(講談社現代新書)がある。その問題意識は『芸術立国論』から変らない。その間に書かれた『わかりあえないことから』(講談社現代新書)について、以前「会話と対話」の項で論じた。このことは前回「日本流ディベート」でも触れた。出版の順番は、

『芸術立国論』(2001年)
『わかりあえないことから』(2012年)
『下り坂をそろそろと下りる』(2016年)

である。「会話と対話」の項も併せてお読みいただければ嬉しい。

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posted by 茂木賛 at 15:03 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

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