藻谷浩介氏の著書については、これまで「里山システムと国づくり」の項で『里山資本主義』(共著・角川oneテーマ21)、「里山システムと国づくり II」の項で『しなやかな日本列島のつくりかた』(対談集・新潮社)、と書いてきたが、先日『和の国富論』(新潮社)が出版されたので紹介したい。これは『しなやかな日本列島のつくりかた』の続編とでもいうべき内容で、対談の相手は現場に腰を据えた各分野の専門家5人と、このブログでも度々その著書を論じている養老孟司氏。
第一章:「林業」に学ぶ超長期思考……速水亨(速水林業代表)企業統治は「ガバナンス強化」より「家業化」せよ。
第二章:「漁業」は豊かさを測るモノサシである……濱田武士(漁業経済学者)農林漁業は「効率化」より「需要高度化」を目指せ。
第三章:「空き家」活用で日本中が甦る……清水義次(都市・建築再生プロデューサー)地方創生は「雇用」よりも「営業生活権」を確保せよ。
第四章:「崩壊学級」でリーダーが育つ……菊池省三(元小学校教師)リーダーは「進学校」より「崩壊学級」で練成せよ。
第五章:「超高齢社会」は怖くない……水田惠(株式会社ふるさと代表取締役社長)老後不安は「特養増設」より「看取り合い」で解消。
第六章:「参勤交代」で身体性を取り戻す……養老孟司(解剖学者)日本国民は「参勤交代」で都会と田舎を往還せよ。
ということで、林業、漁業、空き家、学級崩壊、超高齢社会、都市と田舎について、前回同様、現状を踏まえた上で将来の展望を語る内容となっている。本書の「はじめに」から藻谷氏の文章を引用しよう。
(引用開始)
林業の対話で描かれる、五〇年以上のサイクルで物事を考える「林業時間」の重要性。漁業の対話の中から浮かび上がる、「質」と「多様性」を何よりも重視する新たな市場原理。街区再生の対話で語られる「営業生活権」という言葉が内包する、「雇用」とは一味違う豊かさと楽しさ。教育の対話は、「コミュニケーション」を通じ相互を高めあう経験こそが、(市場経済を含む)人間社会を維持する必須条件なのではないかと考えさせる。福祉の対話は、認知症を発症したホームレスという厳しい状況に置かれた人間にも、普通の経済生活を営む人間とまったく同様の尊厳のあること、それを認めることから、経済社会の基盤づくりが始まることを示す。そしてそれらの諸要素は、最後の養老孟司氏との公開対談の中に再び登場し、脳の肥大化した特殊な生物、とはいっても自然の中におかれた生き物の一種にすぎない人類、さらにはその片割れに過ぎない自分たち個人の、社会的生物としてのあるべき生き方が示唆される。人が仕事を選ぶのではなく、仕事が人を選ぶのだ、といった両面からの考察が、心に刺さる。
(引用終了)
<同書 5ページ)
このブログでは経済を「自然の諸々の循環を含めて、人間を養う、社会の根本の理法・摂理」と捉え、マネー増減だけに囚われない起業家精神を説いているが、藻谷氏もそのように経済を考えておられるようで、氏の著書にはいつも元気付けられる。
前著『しなやかな日本列島のつくりかた』が扱った分野は、商店街、限界集落、観光地、農業、医療、鉄道、街づくり。今回のものと併せ、いづれも難しい問題を抱えた領域ではあるが、困っておられる方は、これらの対談を繰り返し読むことで、解決のヒントが見えてくると思う。
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