夜間飛行

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モランディと中川一政

2016年05月03日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 東京ステーションギャラリーで、「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」展を観た。ジョルジョ・モランディ(1890−1964)はイタリアの画家。瓶や器、ボローニャの街角風景などを繰り返し描いた。展覧会の新聞広告から引用しよう。

(引用開始)

 生没年を見ればわかる通り、モランディが生きた時代は20世紀の幕開け、芸術上の革命が次から次へと起った激動期です。その中で、モランディは、前衛的な絵画動向を横目で見つつ、故郷のボローニャのアトリエにこもって、静物画という限定された主題に取り組みました。簡素な生活スタイル、簡素な画題、簡素な色彩、簡素な形。しかしその簡素さは、全く逆に、絵画というものを攻め、突き詰めるためにあえて選ばれた冒険の結果でした。
 パッと見で上品な絵と判断されがちなモランディは、「静か」「静謐」などお定まりの形容で語られることがしばしば。が、実際には、ふらつくような筆の運動、微妙な器の配置、ぎりぎりのラインで呼応し合う色調の組み合わせなど、画面はじつに饒舌です。
 線・色・形・空間の手に汗握る展開を目の当たりに出来るモランディの絵画。その面白さを圧縮させているのが、器やテーブルの境界に現れる輪郭線です。周囲に溶け込んでいたり境目をがっちり切り分けたり、一本の瓶の周囲でさえ多様な変化を見せる輪郭線は、それだけで見る目を飽きさせません。目で辿ると、モランディの絵の密度(詰まった感じ)の秘密もわかるでしょう。輪郭の部分こそ、色と形が押し合いへし合いし、絵の空間を決定する要のポイントだからです。ゆらゆら揺れるモランディの線はおそらく、その押し合いへし合いの結果なのです。(東京ステーションギャラリー 学芸員・成相肇)

(引用終了)
<東京新聞 2/2016掲載(抜粋)>

モランディの絵の特徴は、造形のミニマム化、色彩の旋律、テーマ性の排除、といった言葉に纏めることができるだろう。

 20世紀は、大量生産・輸送・消費システムと人のgreed(過剰な財欲と名声欲)による“行き過ぎた資本主義”が跋扈し、科学の「還元主義思考」によって生まれた“モノ信仰”が蔓延する時代だった。世界は今もその残滓に苦しんでいるが、20世紀の画家たちは、主に二つの方法でこれに立ち向かった。一つは“モノ信仰”を逆手にとって、要素還元的な絵画で時代を批判・揶揄する方法。フォービズム、キュビズムなどの画家たちだ。もう一つは時代に背を向けてひたすら「コト」の孤高を守る方法。モランディはこちら側の画家だったと思う。勿論二つの方法を使い分けた画家もいるし、時代に妥協してしまった画家たちも多くいただろう。

 東京ステーションギャラリーでモランディを堪能した後日、旅行中、偶々湯河原にある「真鶴町立中川一政美術館」で中川一政(1893−1991)の絵を観た。モランディはボローニャで、瓶や器、街角の風景を描いたが、中川も真鶴に居を定め、壷の薔薇や箱根駒ケ岳、福浦突堤の風景などを繰り返し描いた。中川の絵にも、造形のミニマム化、色彩の旋律、テーマ性の排除といった特徴がある。これは面白い発見だった。

 20世紀の西洋絵画の主流は、フォービズム、キュビズム、抽象絵画、シュルレアリズム、表現主義へと変化してゆくが、モランディも中川も、それらを横目で見ながら、終始一貫して同じ絵を描き続けた(風土と対象は違うけれど)。生年月日をみると、二人は同世代であり、物心付いたのは共に20世紀初頭であることがわかる。

 二人は共にセザンヌ(1839−1906)から影響を受けたという。セザンヌについては、「20世紀を前にした絵画変革」の項で、「周辺的なモティーフによる造形と色彩表現」と纏めたが、20世紀に入り、モランディと中川はこの試みをさらに持続展開させたともいえるだろう。

 テーマ性の排除と色彩の旋律だけならば、抽象画でも表現できる。しかし「造形」が加わると、アフォーダンス的な知覚が刺戟される。アフォーダンス理論では、世界はミーディアム(空気や水などの媒体物質)とサブスタンス(土や木などの個体的物質)、そしてその二つが出会うところのサーフェス(表面)からなっていて、人は自らの知覚システム(基礎的定位、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、視覚)によって、運動を通してこの世界を日々発見するとされる。絵を観るのも視覚による運動である。二人は「造形」を捨てなかったことで、そしてそれを瓶や器、街角の風景、壷の薔薇や箱根駒ケ岳といった形に「ミニマム化」することで、観る人の知覚システムをより強く喚起することに成功した。

 これまで、21世紀の絵画表現について、

●動きそのものを描こうとする絵画(「21世紀の絵画表現」)
●汎神論的、自然崇拝的な絵画(「ラファエル前派の絵画」)
●豊な時間を内包する絵画(「写実絵画について」) 

と書いてきたが、モランディや中川の、

○造形のミニマム化
○色彩の旋律
○テーマ性の排除

といった特徴は、今世紀どのように引き継がれるのだろう。最後の「テーマ性の排除」が、「豊な時間を内包する絵画(写実絵画)」へと引き継がれることは想像できる。他二つの特徴の行方についてはどうか。この辺りまた項を改めて考えてみよう。

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posted by 茂木賛 at 11:19 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

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