先日「階層間のあつれき」の項で、『官僚階級論』佐藤優著(モナド新書)を紹介したが、『世界史の極意』(NHK出版新書)という本は、佐藤氏が「アナロジー的思考」という手法を使って、現在世界で起きている様々な問題を解説したものだ。アナロジー的思考とは、
(引用開始)
本書では、<いま>を読み解くために必須の歴史的出来事を整理して解説します。世界史の通史を解説する本ではありません。世界史を通して、アナロジー的なものの見方を訓練する本です。
いま、「アナロジー(類比)」と書きました。これは、似ている事物を結びつけて考えることです。アナロジー的思考はなぜ重要なのか。未知の出来事に遭遇したときでも、この思考法が身についていれば、「この状況は、過去に経験したあの状況とそっくりだ」と、対象を冷静に分析できるからです。
(引用終了)
<同書 10−11ページ(フリガナ省略)>
ということで、これは「背景時空について」の項でいうところのA側の考え方、「分ける」発想法、分けたものを固定・類比し整理する思考である。複眼主義の対比、
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A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)
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B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)
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でいうA側の考え方である。
なぜアナロジー的思考法なのか。氏は、今の世界は「戦争の時代」が再燃しようとしている状況だとし、
(引用開始)
このような状況にあって、知識人の焦眉の課題は「戦争を阻止すること」です。そして、戦争を阻止するためには、アナロジカルに歴史を見る必要があります。
なぜか。
すでにお話したとおり、アナロジカルに歴史を見るとは、いま自分が置かれている状況を、別の時代に生じた別の状況との類比にもとづいて理解するということです。こうしたアナロジー的思考は、論理では読み解けない、非常に複雑な出来事を前にどう行動するかを考えることに役立つからです。(中略)
第一章でくわしく見るように、現代は十九世紀末から二〇世紀初頭の帝国主義を繰り返そうとしている。帝国主義の時代には、西欧諸国が「力」をむきだしにして、勢力を拡大しました。現代もまた中国、そしてロシアが帝国主義的な傾向を強めている。これが、アナロジカルに歴史を見ることの一例です。
(引用終了)
<同書 17−18ページ(フリガナ省略)>
と書く。本の目次を紹介しよう。
序 章 歴史は悲劇を繰り返すのか?
――世界史をアナロジカルに読み解く
第一章 多極化する世界を読み解く極意
――「新・帝国主義」を歴史的にとらえる
第二章 民族問題を読み解く極意
――「ナショナリズム」を歴史的にとらえる
第三章 宗教紛争を読み解く極意
――「イスラム国」「EU」を歴史的にとらえる
今の世界を氏は「新・帝国主義」の時代と分析し、それを「資本主義と帝国主義」「民族とナショナリズム」「キリスト教とイスラム」という三つの背景時空からアナロジカルに読み解いてゆく。
(引用開始)
資本主義、ナショナリズム、宗教――私の見立てでは、この三点の掛け算で「新・帝国主義の時代」は動いている。その実相をアナロジカルに把握することが本書の最終目標です。
(引用終了)
<同書 28ページ>
私も、「熱狂の時代」の項で述べたように、モノコト・シフトの時代、人々の考え方がB側に偏りすぎると、熱狂による戦争が起りかねないと考える。我々はA側の考え方をもっと学ぶべきだし、そのためにこの本の知見が役立つと思う。
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