前回「揺り戻しの諸相」の項で、モノコト・シフトを巡る様々な力関係における守旧派と新興勢力間の「せめぎあい」に関して、
(引用開始)
20世紀を担ったのは(当然ながら)21世紀の老年層であり、主導したのは欧米諸国の富裕層による覇権主義である。従って、「様々な力関係」のうち、世代間では「老年層の守旧と若年層の新興」、男女間では「男性性の守旧と女性性の新興」、階層間では「富裕層の守旧と貧困層の新興」、といった大まかな対立軸を描くことができる。宗教間や地域間、国家間における対立や分裂は、「覇権主義=守旧、多極主義=新興」といった軸で見るのがいいだろう。
(引用終了)
と書いたけれど、今回はそのうちの「階層間のあつれき」に焦点を当ててみたい。
富裕層には、人類の三つの宿啞、
(1)社会の自由を抑圧する人の過剰な財欲と名声欲
(2)それが作り出すシステムとその自己増幅を担う官僚主義
(3)官僚主義を助長する我々の認知の歪みの放置
のうち、(1)の過剰な財欲と名声欲(greed)を持つ人が少なくない。彼らは(2)の官僚主義(bureaucracy)を利用して、中間層や貧困層を(3)の認知の歪み(cognitive distortions)に陥れながら自らの財を増やしてきた。だから彼らの守旧運動は概ねこのスキーム上で繰り広げられる。
彼らが富を成す有力手段の一つは「経済の三層構造」でいう「マネー経済」b:「利潤を生み出す会計システム」上の株式や債券投資だ。それらの富は財といっても、信用創造と金利だけが頼りのペーパーマネーだから、モノコト・シフトによって「“モノ”余りの時代」が到来すると、それと同期して収縮せざるを得ない。守旧運動はその実態を隠しながら行なわれる。しかし所詮は悪足掻きに過ぎない。『再発する世界連鎖暴落』副島隆彦著(祥伝社)には、greedを持つ人々のそういう悪足掻きが、数字を伴って暴かれている。2015年11月発行の本だ。参考になると思う。恐ろしいのは彼らが戦争をも利用しようとすることである。大きな戦争となるともはや地球環境が持たないかもしれない。
参考までに経済の三層構造とは、
「コト経済」
a: 生命の営みそのもの
b: それ以外、人と外部との相互作用全般
「モノ経済」
a: 生活必需品
b: それ以外、商品の交通全般
「マネー経済」
a: 社会にモノを循環させる潤滑剤
b: 利潤を生み出す会計システム
であり、モノコト・シフトの時代には、特にa領域(生命の営み、生活必需品、モノの循環)への求心力と、「コト経済」(a、b両領域)に対する親近感が増す。尚、ここでいう「経済」とは、「自然の諸々の循環を含めて、人間を養う社会の根本理法・理念」を指す。
官僚主義(bureaucracy)を体現する人々を、一つの「階級」として扱おうというのが『官僚階級論』佐藤優著(モナド新書)だ。2015年10月発行の本。官僚は(1)のgreedに取り入るだけでなく、集合的無意識によって自らを守るとする、ユニークな視点の本だ。官僚は「nationとstate」の項で述べた「state」の今を裏から牛耳る。greedの後ろで蠢く官僚を、「階級」として扱うことで表に引き摺り出そういう意図があるらしい。副題に「霞ヶ関(リヴァイアサン)といかに闘うか」とある。本の帯にある紹介文には、
(引用開始)
官僚はこう信じている。「有象無象(うぞうむぞう)の国民を支配するのは自分たち偏差値エリートだ」と。
(引用終了)
とある。これも読むと面白い。
階層間の「富裕層の守旧と貧困層の新興」。これからの時代、地球環境を守りつつ貧困層を新興させるには、富裕層が溜め込んだ、あるいは官僚が隠し持つ「マネー経済」b:「利潤を生み出す会計システム」上のペーパーマネーを、「マネー経済」a:「社会のモノを循環させる潤滑油」の方に活用して、必要な産業基盤(インフラ)への投資を行なうことだと思う。
日本でいえば観光インフラ投資、とくに日本海側への投資、海外でいえばユーラシア大陸への投資(「観光業について」「観光業について II」「日本海側の魅力」各項参照のこと)。福祉への投資も大切だ。副島氏は『再発する世界連鎖暴落』の中で、ユーラシア大陸のど真ん中に沢山都市をつくり、中国だけでなくユーラシア全体の職のない若者たちのために、新しい雇用を生み出すべきだという。そして日本の汚水処理技術と海水から真水をつくる技術を惜しみなく導入する。
(引用開始)
もう日本人は東シナ海ばかりを見ている時代ではない。これからの世界は、ユーラシア大陸が世界の中心となる“陸の時代”なのだ。水さえ十分つくれれば、人類は生きてゆける。巨大な有効需要もつくることができる。そうすれば、大きな戦争=第3次世界大戦をしないですむのである。
(引用終了)
<同書 239ページ(フリガナ省略)>
尚、副島氏と佐藤氏には『崩れゆく世界 生き延びる知恵』(日本文芸社)という共著もある。2015年6月発行。副題には「国家と権力のウソに騙されない21世紀の読み解き方」とある。併せて読むとよいと思う。
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