前回「時代の地殻変動」の項で、『物欲なき世界』という本を紹介し、モノコト・シフト時代の地殻変動の様子を見たが、当然のことながら、変化には「揺り戻し」が付き物だ。同書からそのことを指適する部分を引用しよう。
(引用開始)
現在進行中の、そしてさらに顕在化されるであろう「物欲なき世界」は、貧しいわけでも愚かなわけでもない。むしろ今まで以上に本質的な豊かさを感じられる世界になるはずだ。ただ、「何をもって幸せとするか」を巡る価値観の対立は今まで以上に激しくなるだろう。これまでの見える価値=経済的価値を信奉する守旧派と、見えない価値=非経済的価値を提唱する新興勢力とのせめぎあいはあらゆる局面で顕在化してくるに違いない。
(引用終了)
<同書 247ページ>
守旧派と新興勢力との「せめぎあい」は、社会の様々な力関係における対立、あるいは分裂として立ち現れてくる筈だ。「様々な力関係」とは、世代間、男女間、階層間、宗教間、地域間、国家間などのそれを指す。
モノコト・シフトは、複眼主義の、
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A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」−「都市」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」
A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)
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B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」−「自然」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」
B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)
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という対比において、A側に偏った20世紀から、B側の復権によってA、B両者のバランスを回復しようとする21世紀の動きだから、揺り戻しの諸相は、その逆の(A側の守旧)運動として捉えることができるだろう。
20世紀を担ったのは(当然ながら)21世紀の老年層であり、主導したのは欧米諸国の富裕層による覇権主義である。従って、「様々な力関係」のうち、世代間では「老年層の守旧と若年層の新興」、男女間では「男性性の守旧と女性性の新興」、階層間では「富裕層の守旧と貧困層の新興」、といった大まかな対立軸を描くことができる。宗教間や地域間、国家間における対立や分裂は、「覇権主義=守旧、多極主義=新興」といった軸で見るのがいいだろう。
ただし、これらはあくまでも大枠であって、それぞれの内部では別の動きもある。振り子はA側とB側の間を行ったり来たりしながら、A、B両者のバランスが回復したところでモノコト・シフトは終わるだろう。その先の新しい時代の実相を今から見通すことは難しいが、“コト”(“固有の時空”)の相互作用を十分踏まえたものとなることだけは間違いないと思う。
揺り戻しは、「熱狂の時代」の項でみたように、人類の三つの宿啞、
(1)社会の自由を抑圧する人の過剰な財欲と名声欲
(2)それが作り出すシステムとその自己増幅を担う官僚主義
(3)官僚主義を助長する我々の認知の歪みの放置
によって動機付けられるだろう。人は本来「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つ哺乳類」だと私は考えている。だから性悪説は採らないが、この三つの宿啞を上手くコントロールしないと、人類はその先の新しい時代どころかモノコト・シフトすら達成せずに滅ぶかもしれない。地球環境が持たないからだ。改めて「三つの宿啞」の項をお読みいただきたい。
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