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観光業について

2015年09月15日 [ 起業論 ]@sanmotegiをフォローする

 「環境中心の日本語」の項で引用した『新・観光立国論』デービッド・アトキンソン著(東洋経済新報社)について改めて紹介したい。まず新聞の書評を引用しよう。

(引用開始)

 東京五輪開催決定のIOC総会での「お・も・て・な・し」のプレゼン。日本では好評だが、欧州では一つ一つ区切った話し方は相手を見下す態度にとられ、「否定的意見が多い」との記述に一瞬、目が点に。
 在日25年。敏腕証券アナリストから創業300年超の文化財修繕会社の社長に。茶道に通じ、京町家に住むイギリス人が、日本の外国人観光客誘致戦略に「勘違い」はないかただすべく、日本語で書いた辛口提案書だ。
 「世界に誇るおもてなしの心」も、外国人にとっては旅の途中での「人との触れ合い」程度の話で第一目的にはならない。そこには「自分たちが世界でも特別な存在」との「自画自賛」の「上から目線」を感じるという。
 気候、自然、文化、食事の「観光立国の4条件」を満たす希有な国なのに、お金を落としてもらうための、外国人目線に立ったサービスが不足した「観光後進国」との指適も耳が痛い。
 人口減少社会でGDPを増やすには、外国人観光客を「短期移民」と位置づける戦略が必要との論法が面白い。だから、「おもてなし」の精神以上にサービスとインフラを整備せよと。
 観光支出の多い欧州などの「上客」を呼び込む方法も披露。特に文化財の意味を伝える見せ方の提案は傾聴すべきだ。

(引用終了)
<朝日新聞 7/5/2015>

 複眼主義では、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心

という対比を論じているが、この本は特にAの観点から、日本の観光業の足りないところを論じたものだ。たとえば、ゴールデンウィークは無くしたほうが良いなど、日本語的発想とは一味違った指適が多い。観光関連で起業を目指す人にお勧めの本である。

 このブログでは、21世紀はモノコト・シフトの時代だと述べている。モノコト・シフトとは、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、二十世紀の大量生産システムと人の過剰な財欲による「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方、考え方への関心の高まりを指す。

 「経済の三層構造」や「“モノ”余りの時代」の項で論じたように、モノコト・シフトの時代には、経済の三層構造、

「コト経済」

a: 生命の営みそのもの
b: それ以外、人と外部との相互作用全般

「モノ経済」

a: 生活必需品
b: それ以外、商品の交通全般

「マネー経済」

a: 社会にモノを循環させる潤滑剤
b: 利潤を生み出す会計システム

において、特にa領域(生命の営み、生活必需品、モノの循環)への求心力と、「コト経済」(a、b両領域)に対する親近感が増す。尚、ここでいう「経済」とは、自然の諸々の循環を含め人間を養う社会の根本理念・摂理(人間存在システムそのもの)をいう。

 開発途上国の国民の間では、前者<a領域(生命の営み、生活必需品、モノの循環)への求心力>の方が、後者<「コト経済」(a、b両領域)に対する親近感>よりも重要だろうが、生活必需品が行き渡っている先進諸国の上層国民の間においては、後者の方が重視されるはずだ。観光業はそもそも「コト経済」(b領域)をベースにしたビジネスだから、これからの観光業は、この後者の増大を最大限に追い風とすべきなのであろう。この本でアトキンソン氏は、観光支出の多い欧州などの「上客」をより重点的に呼び込むべきだとしているが、それはこういった背景を踏まえているのだと思われる。

 世界的に見て今の時点では、モノコト・シフトの波を早く被った地域(先進国)と、まださざなみ程度の地域(開発途上国)の違いはある。開発途上国の国民が日本へ買出しに来るのは、モノ信仰の故かもしれない。しかしモノコト・シフトが進めば、彼らの間でも「コト経済」(b領域)への親近感が高まるだろう。

 モノコト・シフトの時代、この本に付け加えて我々のなすべきことは、

(1)日本語(文化)のユニークさをアピールする
(2)パーソナルな人と人との繋がりをつくる
(3)街の景観を整える(庭園都市

など、GDPに表われない部分に磨きを掛けることだと思う。ITを活用するのもいいだろう。「コト経済」の真価は、「マネー経済」の指標では捉えきれない。この件、「日本海側の魅力」の項で論じた関心事と併せ、さらに別途検討してみよう。

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posted by 茂木賛 at 12:27 | Permalink | Comment(0) | 起業論

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