前回「庭園都市」の項で紹介した『庭の旅』と兄弟のような本がある。『木洩れ日の庭で』中谷耿一郎著(TOTO出版)がそれで、同じ出版社から11ヶ月ほど隔てて出版された。
『庭の旅』:2004年6月初版
『木洩れ日の庭で』:2005年7月初版
(引用開始)
自然体で生きたいと願うすべての人へのメッセージ。
八ヶ岳のふもとに住まい
四季折々の自然とともに生きるランドスケープ・デザイナーの
森の中の小さな暮らしから生まれた、人生を愉しむ庭づくり。
(引用終了)
<同書帯表紙より>
ということで、これは造園家の中谷氏が、庭造り(土や石、花や樹、森や小川、家や生活、四季や風景など)に関する思考や美意識を、ご自身の撮った見事な写真と共に、二十二の章に収めた美しい本だ。
(引用開始)
ランドスケープ・デザインの核心は、無垢の原生林から鉢植えの花や盆栽に至る、人と植物のよりよいかかわり合い方、もしくは折り合いのつけ方を見つけ出すことにあるのではないかと常々思っている。特に森や森に近い里での暮らしのスタンスは、各自が苦痛を感じたり生活に支障をきたしたりしない範囲で、できるだけ自然度の高い環境を維持することでありたいと思う。
(引用開始)
<同書 86−87ページ>
という言葉に、氏のバランスの取れた思考・美意識が簡潔に纏められている。
南北に長く、また標高差が大きい日本列島には、地球上の植生の大半があるという。変化に富んだ四季と豊な植生、それらをどう生かすか。この本は、庭づくりを目指す人にとって良き参考となるに違いない。
私は以前、この本を読んだことがあった。今回『庭の旅』を読んだのを機に再読し、土のことや石、水の扱いなど細部に関する知見を再認識した。写真の美しさにもあらためて感動した。
中谷氏の庭は、『庭の旅』の方でも、「デザインは齢を重ねた心の地図 造園家が暮らす小さな山荘と小さな庭」として紹介されている。白石氏が中谷氏の造園に共鳴し、八ヶ岳の麓の中谷宅へ出かけたときの体験を基にしたものだ。奥さまの白井温紀さんが描いた中谷邸全体図もある。
庭園都市計画家と造園家(ランドスケープ・デザイナー)。それぞれの本の「あとがき」によると、その後のお二人の付き合いのなかで、まず中谷氏が白石氏にある出版社を紹介し、その会社の雑誌に白石氏が記事を連載したことで、2004年に『庭の旅』が生まれた。それとは別に、中谷氏もある建築系の雑誌に記事を連載していた。それを読んで、こんどは白石氏がTOTO出版に話をもちかけ、11ヵ月後に『木洩れ日の庭で』が生まれた。二つの本が兄弟だという所以である「スモールワールド・ネットワーク」や「ハブ(Hub)の役割」を地で行くような話しではないか。幸せな二冊の出版を喜びたい。
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