これまで見てきたように(「カーブアウト」「カーブアウトII」)、新しい技術を社会に役立てようとする企業人にとって、カーブアウトという手法はアドバンテージが多いのだが、もう一つ踏み切れない理由として、失敗したらどうしよう?という心配があると思う。
日本は人材市場の流動化(Social Mobility)がまだ進んでいないから、カーブアウトしたものの失敗したら社員が路頭に迷う可能性がある、かといって元に戻すのも…。ということで二の足を踏む。しかし、いつまでも終身雇用の時代ではないし、新しい技術を社内で埋もれさせてしまうのはもったいない話だ。
カーブアウト企業を考える場合、その先の戦略として二種類の方法があると思う。ひとつは、ベンチャービジネスとして、将来の株式公開もしくは事業売却を前提とする方法、もう一つは、スモールビジネスとして、将来的にも(地域密着型で)事業を継続していく方法である。前者は、成功すると大きな利益を得ることができるが、失敗のリスクも高い。後者は、大きな利益は生まないかもしれないが、地域社会に、特色のある産業と、継続した雇用を残すことができる。
以前「ウェブ新時代」で紹介した「ウェブ時代をゆく」(ちくま新書)の中で、著者の梅田望夫氏は、スモールビジネスとベンチャービジネスに関して『たとえば「スモールビジネスを作る」のと「ベンチャーを起こす」のはぜんぜん違うことだ。前者はこれまでの仕事や生活の延長で考え得るカジュアルなことだが、後者は大きな決心と責任を伴う「期限付きで挑戦するビジネスゲーム」である。スモールビジネスは、事業の成長も創業者や経営者のライフスタイル次第だし、先行投資は利益の範囲で好きなだけやればいい。極端な話、別に成長を目指さなくたっていい。』(219−220ページ)と書いておられる。
人材市場の流動化がまだ進んでいない日本にとって、親会社と地域社会が共に助け合いながら、カーブアウト企業を(地域密着型のスモールビジネスとして)育んでいくことは、とても意義のある方法なのではないだろうか。
『現場のビジネス英語「MarketingとSales」』で紹介した「ボローニャ紀行」(文藝春秋)の中で、著者の井上ひさし氏は、ボローニャのスモールビジネスについて、「職人企業とは、製造業では従業員が二十二名以下、伝統産業では四十人以下の、小さな企業のことです。ここで働いてやがて熟練工になると(そのつもりがあればですが)いつでも独立できます。(中略)シルク都市時代からの技術の集積、熟練工たちの巨大な情報網、職人を大切にしようという意志、そして生まれた土地で育ち、学び、結婚し、子どもを育て、孫の顔を見ながら安らかに死ぬのが一番の幸せという生き方、そういったこの土地の精霊がボローニャに、フェラーリといった高性能自動車や、ドゥカーティといったすごいオートバイを生み出したのでした。」(63−64ページ)と書いておられる。日本もこの「ボローニャ方式」を見習って、各地に特色のあるスモールビジネスを育てていくべきだと思う。
さて、カーブアウトまで行かなくとも、大手企業が自らの資産を使って、地域のスモールビジネスを支援していくことはもっと行われて良いと思う。スモールビジネスの経営者は、大手企業の様々なインフラが使えれば随分と助かる筈だ。身近な話として、社員食堂やスポーツ施設を(時間を区分して)スモールビジネスの社員(や一般の住民)に開放するのもいいと思う。
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