カーブアウトの話を続けよう。先々回の「カーブアウト」を読んで賛同してくれた人もいるだろうが、社内でいくら運動してもなかなかカーブアウトの承認が貰えず、悩んでいる人もいることと思う。
承認が貰えない理由の一つとして、親会社の目的(Objective)がクリアーでない場合が考えられる。どういうことかというと、以前「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」で、「いくら小さくとも会社は一つの共同体だから、その理念と目的を、社員やお客様、さらには社会に対してわかりやすく伝えることが大切なのである。」と書いたけれど、会社が大きくなってくると、当初定めた理念や目的がはっきりしなくなってくるのである。
役員たちがそこで一旦立ち止まって、目的を書き換えるなり(あるいは初心に還るなり)すればよいのだが、特に儲かっていたりするとそれを怠るケースが多い。そしてお金儲けだけが企業の目的のような錯覚に囚われてしまう。そうなると、社員から新しい技術を見せられたときに、それを社内で活用すべきなのか、カーブアウトして新規事業として始めるべきかの判断が付かない。だから承認も(逆に開発中止の判断も)できないのだ。
もう一つの理由は、その新技術が親会社の目的に沿わないことがわかっていても、なんとか親会社の目的に合致するように(技術を)改善できないかと役員が考える場合である。以前『現場のビジネス英語「Resource PlanningとProcess Technology」』のなかで「一般的にいって、欧米の企業はResource Planning(投資など)に優れており、日本の企業はProcess Technology(工程改善)が得意である。」と述べたけれども、カーブアウトの判断は、多分にResource Planning的行為だから、日本の会社はそもそも不得意なのである。本来カーブアウトすべき新技術を持ちながら、経営判断に時間ばかり掛けて、せっかくのビジネス・チャンスを逸してしまう。
それ以外にも、提案する側の問題として、新技術の可能性を十全に説明し切れていない、ビジネスモデルがクリアーでない、などの理由もあるだろう。社内でカーブアウトの承認が貰えず悩んでいる人は、会社側の問題点を認識すると同時に、ご自分のプレゼンテーションに磨きをかけていただきたい。そして、もう一つ大切な視点として忘れてならないのが、「そのカーブアウト企業はどう社会の役に立つのか」という理念(Mission)だ。
カーブアウト企業は、普通のスモールビジネスと同じ「起業」であり、具体的に何を達成したいのかという目的ばかりではなく、なぜその会社を興そうとしたのかという理念がなければならない。これはプレゼンテーションだけではどうにもならない。それ以前の社会的情熱の問題だからだ。
最近、『「社会を変える」を仕事にする」』駒崎弘樹著(英治出版株式会社)という若き社会起業家の本を読んだが、あなたの技術がどう社会の(生産活動に!)役に立つのか、それを熱く語ることが出来れば、頭の固い親会社の役員さんたちも、最後にはあなたの情熱に動かされるかもしれない。
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