経営戦略としてのカーブアウトについて考えてみたい。カーブアウトとは、「社内に眠っている技術や事業の一部を企業が切り出し、事業化に向けて一定額を出資するとともに、第3者からの出資も仰ぐなどして、事業の成長を目指す手法」(毎日新聞社「エコノミスト」2008.3.4中村芳平『ベンチャーの新しい波「カーブアウト」』より)のことである。
経営資源と市場とのマッチング方法についてこれまで述べてきた、経営資源の充実(『現場のビジネス英語「Resource PlanningとProcess Technology」』)やビジネスモデルの変更(「爆弾と安全装置」)は、あくまでも企業の理念と目的に沿った戦略だが、大企業が生み出す技術には目的を超えて応用可能なものも多く、そういう技術資源は、新しい理念と目的を掲げたスモールビジネスとしてスタートさせた方が良い。「カーブアウト」はその為の手法だ。
生物学者の池田清彦氏は、最新の著書「細胞の文化、ヒトの社会」(北大路書房)のなかで、太陽光発電技術に関連して、「発電は集中型より分散型の方がエネルギー効率が良く、リスクも少ない。」と述べておられるが、そもそも、社会エネルギーの転換システムである企業も、自然エネルギーの転換であるところの発電と同じで、分散型の方が効率が良くリスクも少ないのだ。私がスモールビジネスを説く所以である。
日本政策投資銀行の木嶋豊氏は、その著書「カーブアウト経営革命」(東洋経済新報社)の中で、カーブアウトのメリットとして「@新規事業のスピードアップが見込める、A既存ビジネスのしがらみを取り除くことができる、B事業のポートフォリオに合わない事業部門やIP(知的財産権)を活用できる、C新規事業者のインセンティブ・やる気を確保できる、D親元企業のさまざまなインフラを活用できる、等」を挙げておられる。
中でも、@新規事業のスピードアップ、D親元企業のインフラ活用、の二つはカーブアウトの目玉だ。大企業ではどうしても経営判断に時間がかかり、せっかくのビジネス・チャンスを逸してしまうことが多い。一方通常のスモールビジネスでは、研究施設などのインフラにそれ程お金を掛けられない。
以前「スモールビジネスの時代」のなかで、安定成長時代を支える産業システムの一つは「新技術」だと指摘したが、バイオ、化学、ナノテクなどの技術領域は、日本人の得意なProcess Technologyを生かせる分野でもある。これらの新技術をさらに躍進させるためにも、日本ではもっとカーブアウトの手法が活用されて良いと思う。
不可逆システムではないバイオ、化学、ナノテクなどの新技術は、これからの時代に不可欠である。土壌汚染浄化事業を手がけるランドソリューション株式会社は、栗田工業からカーブアウトされた会社である。「メタルカラー列伝“トヨタ世界一時代”の日本力」山根一眞著(小学館)で紹介されたナノテク新素材、フラーレンを製造販売しているフロンティアカーボン株式会社は、三菱化学からのカーブアウト企業だ。
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