私は医学の専門家ではないが、「免疫」についていろいろと興味を持って勉強している。
私の興味は今のところ少なくとも三つの視点から成り立っている。一つは自分の健康管理だ。体の健康を保つためには免疫の知識が欠かせない。参考になるのは「これだけで病気にならない」西原克成著(祥伝社新書)や「自分ですぐできる免疫革命」安保徹著(だいわ文庫)などなど。
もうひとつは、上の安保徹教授(新潟大学大学院)がその重要性を説かれている、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスと、私が『「理性」と「感性」』の中で書いたこととの関連だ。
安保教授は、交感神経優位が興奮する体調を生み、副交感神経優位がリラックスする体調を生むと述べておられる。一方、私が指摘したのは、「生産」は「理性的」活動を中心とし、「消費」は「感性的」活動を中心としているということだ。
多くの場合、理性的活動が仕事の緊張を生み、感性的活動が余暇のリラックスした心理状態を支えているから、交感神経優位の体調が「生産活動」には必要で、その逆に、副交感神経優位の体調が「消費活動」を支えている、という対比が可能となる。「生産−理性的活動−交感神経優位」、「消費−感性的活動−副交感神経優位」というわけだ。
社会における生産や消費は、人間の脳がその活動を采配している。免疫系は自律神経の話だが、自己と非自己、自然免疫と獲得免疫などを巡る存在論的な側面と併せて、免疫と脳科学との関係を今後さらに勉強したい。
最後は、以前「並行読書法」の中で述べた、「人体免疫システムに関する知見は、行き詰ったアメリカの行動科学の先にある、新しい社会科学のあり方に示唆を与える。」という視点だ。
「ウェブ新時代」で紹介した東京大学教授の西垣通氏は、日経新聞朝刊の「やさしい経済学」で、社会科学としての生命情報学について、示唆に富む連載記事を書かれた。「生命的な情報組織」という題で3月4日から8回連載、各回のタイトルは、
1. ウェブ上の人格
2. 分散人格と複合人格
3. 自立的システム
4. 思考機械をめざして
5. 個体とは何か
6. ヒトの共同体
7. 機械化されたヒト
8. ITは知恵の手だて
というもので、全体としての論旨は、シャノンのコミュニケーション論に代表される旧来の機械的な情報学から、インターネット社会の可能性を踏まえた生命情報中心の情報学へ、発想の転回を促す内容である。図書館などで是非お読みいただきたい。
免疫学や生命情報学を社会科学に適応する研究は、まだその途に就いたばかりだが、「逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす―」金子勝、児玉龍彦共著(岩波新書)や「免疫をもつコンピュータ 生命に倣うネットワークセキュリティ」溝口文雄、西山裕之共著(岩波科学ライブラリー)などは、その先端的な試みとして重要だろう。
「生産と消費について」の中で、ある人の「生産活動」は別のある人の「消費活動」であると述べたが、免疫系と脳の言語系、すなわち、心と体の状態をつなぐ自律神経のバランス(免疫系)と、社会をつなぐ「生産」と「消費」のバランス(言語系)とは、「環境におけるエネルギーの循環」という点で、そもそも相似的構造になるのかもしれない。
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