『腸内細菌と共に生きる』藤田紘一郎著(技術評論社)という本を面白く読んだ。この本のテーマは「共生」だが、ここでいう共生とは「一つの生存圏に多種多様な生物が棲んでいる状態」のことではなく、「一つの生き物に他の様々な生き物が一緒に住んでいる状態」を指す。本の構成は以下の通り。
第1章 すべては「共生」で成り立っている
第2章 共生思想を生んだ「カイチュウ」との出会い
第3章 共生細菌から見た「腸」と「脳」の不思議なつながり
第4章 共生を支える「エピジェネティクス」とは
エピジェネティクスとは、「遺伝子の配列によって生物の振る舞いや生き方がすべて決まってしまうわけではなく、そこには後天的な要素も大きく影響している」(同書144ページ)ことをいう。以前「遺伝子の平行移動」の項で、藤田氏の他の著書に触れ、エピジェネティクスは、遺伝子という“モノ”から、環境と細胞の相互作用という“コト”への関心のシフトということで、このブログで指適しているモノコト・シフトの一例だと思うと書いたけれど、もともとエピジェネティクスは、この「共生」を支える仕組みなのだ。「共生の思想」こそこれからの時代に相応しい。
著者は最近日本でよく起きる感染症について、その後書き(「おわりに」)の中で、
(引用開始)
これまで再三指適してきたように、私は戦後、日本人が進めてきた「清潔志向」と、それによる日本人の「無菌化」が関係しているように思います。
1960年代半ばから日本人に多発してきた花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー性疾患や2000年頃から急増したうつ病などの病気も、この日本の「無菌化」と密接な関係を持っていたのです。
戦後の日本人の清潔志向は、次第にその度合いを強めてきて、最近では身の回りの人が生きていくための必要な「共生菌」(共生している菌)まで排除し始めました。この共生菌の排除が新しく感染症や病気を生み、一方では人間の免疫力を低下させるように働いたのです。この「共生菌」の排除はいつの間にか「異物」の排除に繋がったのです。近頃では、若い日本人の間に、自分の出す汗や匂いまでも排除する傾向が見られ始めたのです。
このような傾向は、もはや人間が「生物」として生きる基盤さえ奪い、そして、それは人間の精神的な面にも影響を及ぼし、日本人の「感性の衰弱」まで引き起こしているように思えるのです。
本稿では「共生の思想」をないがしろにしている人類が自ら生命を危うくしているばかりでなく、地球上の生物全体を絶滅に追いやっている状況について解説しました。
(引用終了)
<同書 187-188ページ(括弧内は引用者による註)>
という。今の自然破壊は、我々の体外においてだけでなく、体内でも進んでいるわけだ。我々の身体にとって何が問題で、何が問題でないのか、これらの本をよく読んで理解を深めたい。
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