前回「吉野民俗学と三木生命学」の項で触れた自律神経(交感神経と副交感神経)については、以前「交感神経と副交感神経」の項でかなり詳しく書いたが、『賢い皮膚』傅田光洋著(ちくま新書)によく纏まった文章があるので、整理のために引用しておきたい。複眼主義美学のような理論的構築物を作っていくには、建築と同じで細部への理解・目配りが欠かせない。すこし長くなるが、適時コメントを入れながら引用していく。尚、傅田氏の本や皮膚に関することは「皮膚感覚」「境界としての皮膚」などで紹介した。興味のある方はお読み下さい。
(引用開始)
神経は脳と脊髄をひっくるめた中枢神経と、中枢神経から全身に伸びている末梢神経に区別されます。末梢神経には感覚神経、運動神経、自律神経があります。感覚神経は読んで字の如く、全身からの感覚刺激を中枢に伝達する神経です。運動神経は中枢神経で意識したことに従い骨格筋を収縮させて身体を動かします。いずれも秒速数十メートルの速度で情報を伝達します。
(引用終了)
<同書 30ページ>
ここは神経系全体の話だ。先日「複眼主義の時間論」の項で説明した部分と一部重なる。ここから先は自律神経の話になる。続きを引用しよう。
(引用開始)
さて詳しく説明したいのが最後の自律神経です。この神経は無意識に作動しているので、「自律」と名づけられました。つまり意識ではコントロールできない神経とも言えます。具体的には血液循環、呼吸、排泄、体温調節などの生命維持機能を、我々が意識しないでいてもちゃんとコントロールしてくれている重要な神経系です。また本能や情動によって行動するときには、運動神経とうまく協調しながら働きます。また各種ホルモン分泌などを身体の内部、すなわち血管に分泌する内分泌、広義で身体の外部である消化管内や汗など身体の外に物質を分泌する外分泌にも自律神経は関与しています。
(引用終了)
<同書 30−31ページ>
ここは自律神経全体の働きについてまとめた部分だ。呼吸に関する話は以前「呼吸について」の項で詳しく触れた。健康管理に興味のある人はそちらをお読みいただきたい。さらに引用を続けよう。
(引用開始)
この自律神経はさらに交感神経と副交感神経とに区分されます。
交感神経は中枢神経の胸腰髄から出ています。一方の副交感神経は中枢神経の上と下、脳幹と仙髄から出ています。その役割を簡単に既述すると、交感神経系はエネルギーを使う方向、興奮状態、攻撃態勢などの状況で活性化され、逆に副交感神経系は、エネルギーを蓄える方向、食事をして飲み込んで脈はゆっくりしてリラックス状態という状況で活躍しています。
(引用終了)
<同書 31ページ>
複眼主義では、「生産」=「他人のための行為」、「消費」=「自分のための行為」とし、それを自律神経の対比と関連付ていける。すなわち、「生産」=「他人のための行為」=「エネルギーを使う交感神経優位」、「消費」=「自分のための行為」=「エネルギーを蓄える副交感神経優位」という対比・関連だ。詳しくはカテゴリ「生産と消費論」の各項を参照のこと。また、ここで体にとって大事なのは「交感神経は中枢神経の胸腰髄から出ています。一方の副交感神経は中枢神経の上と下、脳幹と仙髄から出ています。」という部分。どちらの自律神経系を活性化させたいかに応じて、呼吸や運動、体操や指圧などのやり方が分かれる。先を続けよう。
(引用開始)
交感神経細胞の大部分はノルアドレナリンを放出して各器官や組織に作用します。アセチルコリンを放出する線維もあります。一方の副交感神経の大部分はアセチルコリンを放出します。各々の物質に対して作動するカギ穴のようなタンパク質、受容体があります。受容体については後で詳しく説明します。ノルアドレナリン、アドレナリンについては大別してα型とβ型があります。一方アセチルコリンについてはニコチン形受容体とムスカリン方受容体があります。これらは各々その作動物質に由来する名称で、ニコチンはいうまでもありませんが、ムスカリンはある毒キノコから抽出された物質の名前です。ノルアドレナリン、アセチルコリン、いずれの場合もそれがくっつく受容体によって作用が異なっています。
(引用終了)
<同書 31−32ページ>
ノルアドレナリンやアセチルコリンについては、以前「神経伝達物質とホルモン」の項でその働きを整理したことがある。併せて読むと理解が深まると思う。引用の最後は自律神経の作用の詳細だ。
(引用開始)
以下におおざっぱですが、交感神経系、副交感神経系による作用を列挙しておきます。
瞳孔は交感神経系で大きくなり(散瞳)、副交感神経で小さくなります(縮瞳)。交感神経系によって起きる現象は、気道の拡張、心拍数の増加、消化液の分泌抑制、射精、汗の分泌、鳥肌、などです。一方、涙、薄い唾液、鼻水、消化液、インシュリンが分泌されるのは副交感神経系です。副交感神経系ではそれ以外に気道の収縮があります。喘息の発作が睡眠時に多い理由です。また排尿、排便、勃起も副交感神経系によるものです。
(引用終了)
<同書 32ページ>
引用は以上。複眼主義による自律神経系の対比・関連付けを纏めると以下の通りとなる。
<交感神経優位>
社会活動:生産=他人のための行為
活動属性:理性的活動
美的意識:早く走り高く上ることへの憧れ(反重力美学)
<副交感神経優位>
社会活動:消費=自分のための行為
活動属性:感性的活動
美的意識:長閑な安らぎと古への懐かしさ(郷愁的美学)
この記事へのコメント
コメントを書く