前に「爆弾と安全装置」の中で、企業戦略(Strategy)とは、持てる資産と市場とのマッチングを図ることであり、両者の乖離が激しいときは、ビジネスモデルの変更も視野に入れなければならないと書いたが、市場の変化がそれほどドラスティックでない場合は、ビジネスモデル自体を変えるのではなく、持てる資産の方を市場に合わせて、強化・改善していくことになる。
今回は、資産を市場に合わせる方法としての二つの方法論、Resource PlanningとProcess Technologyについて考えてみたい。Resource Planningとは、持てる資産(Resource)を市場に合わせて計画・強化することであり、投資などがその例である。一方、Process Technologyとは、技術やプロセス・ノウハウ(KH)などの資産を、市場に合うように継続的に改善していくことだ。
この二つの方法は、相互補完的であるべきだが、国内外の会社と長く付き合ってきた経験から言うと、一般的にいって、欧米の企業はResource Planning(投資など)に優れており、日本の企業はProcess Technology(工程改善)が得意である。
Corporate Value Associates(CVA)の現パートナー、東京オフィス・マネージング・ディレクターパートナーの今北純一氏は、その著書「西洋の着想 東洋の着想」(文春新書)の中で、「切紙細工と粘土細工」、「円陣方式とバケツ・リレー方式」、「コンセプトとディテール」、「橋の上からの座標軸と小船の上からの観察」、などのキーワードを使って、両者の発想の違いを語っておられる。
今北氏のいわれる「切紙細工、円陣方式、コンセプト、橋の上からの座標軸」は、置かれた環境の全体最適を外側から大局的に考える方法で、欧米の得意とするResource Planning的発想であり、「粘土細工、バケツ・リレー方式、ディテール、小船の上からの観察」は、置かれた環境を内部から改善する方法で、日本企業お得意のProcess Technology的発想だ。
さて、以前私は『現場のビジネス英語「否定形の質問について」』の中で、英語では、個々人はつねに事実と向き合って、事実に関するお互いの意見を述べ合うのに対して、日本語は、環境を優先し、質問者の意見に対して賛成・反対を表明すると書いた。これは、英語的発想が、思考の原点に自分という「主格」を置くのに対して、日本語的発想がそれを置かず、「環境」を主体にして思考するということでもあった。
「Resource Planning vs. Process Technology」という対比と、「事実と向き合って意見を述べ合う態度 vs. 環境を優先して賛成・反対を表明する態度」という対比とを横に並べてみると、双方の前者と双方の後者とがそれぞれ重なり合うことに気付く。「Resource Planning =英語的発想」、「Process Technology=日本語的発想」という訳だ。
そういう言語的背景があるから、欧米の企業はResource Planningに優れており、日本の企業はProcess Technologyが得意なのだろう。確かに、Resource Planningを行うためには、「主格」を尊重し、現状を安易に肯定せず、様々な角度から足りないところを指摘し合う必要があるし、Process Technologyを極めるためには、与えられた「環境」に共に入り込み、皆で一致団結して改善作業を行わなければならない。
このように、本来相互補完的であるべきResource Planning とProcess Technologyという二つの方法論が、英語的発想と日本語的発想という対峙をそれぞれのルーツとしているとすると、真の企業経営には、この両者をその両翼の下に宿す強い「包容力」が必要とされる筈だ。
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