ここまで、前々回の「心ここに在らずの大人たち」や前回「フルサトをつくる若者たち」の項で、限界集落に近い田舎に拠点を構え、「生きる」と「楽しむ」を自給するのは、モノコト・シフト時代の確かな暮らし方でありそこにスモールビジネスの活躍の場も大いにある筈だ、と述べてきたが、その主張を小説の形で表現したものが、『限界集落株式会社』黒野信一著(小学館文庫)とその続編『脱・限界集落株式会社』同著(小学館)という二冊の本だ。前者『限界集落株式会社』は最近TVドラマ化されたから知っている人もおられると思う。内容について、本のカバーや帯にある文章を紹介しよう。
(引用開始)
起業のためにIT企業を辞職した多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落と言われる過疎・高齢化のため社会的な共同生活の維持が困難な土地だった。優は、村の人たちと交流するうちに、集落の農業経営を担うことになった。現代の農業や地方集落が抱える様々な課題、抵抗と格闘し、限界集落を再生しようとするのだが……。
集落の消滅を憂う老人達、零細農業の父親と娘、田舎に逃げてきた若者。かつての負け組みが立ち上がる!過疎・高齢化・雇用問題・食糧自給率、日本に山積する社会不安を一掃する逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント。(『限界集落株式会社』カバー裏表紙)
東京から来た多岐川優の活躍で、消滅の危機を脱した止村。あれから4年――。駅前のシャッター通り商店街、再開発か、現状維持か!?優との行き違いから家を出ていた美穂は、劣勢側の駅前商店街保存に奮闘するが……。地方が直面する問題に切り込む、地域活性エンタテインメント!人口減少社会の希望がここにある!!(『脱・限界集落株式会社』帯裏表紙)
(引用終了)
『限界集落株式会社』は農業による地域の活性化であり、『脱・限界集落株式会社』は駅前商店街再生による地域の活性化だ。どちらも小説ではあるけれど、現実的で、起業を目指す人にとっていろいろと参考になると思う。
ストーリーは本を読んでのお楽しみとして、ここでは『限界集落株式会社』の解説から、「フルサトをつくる若者たち」の項でも述べたマネー経済について書かれた部分を引用しておこう。
(引用開始)
本書を読み進めていくと頭に浮かぶ疑問がる。
はたして人が生きていくうえで必要なのはお金だろうか、それとも水や食糧だろうか。いわゆるマネー資本主義とよばれる思想が、いつの頃からか隆盛を極めるようになった。自分の存在価値は稼いだお金の額で決まると、大なり小なり皆が思っている。それどころか、他人の価値までをも、稼いだ金の多寡で判断しようとしてはいないだろうか。
本来は、必要な何かと交換するための手段であったはずの通貨が、それ自体を集めることが目的化してしまう矛盾。
いくら人里離れた農村といえども、現代社会においてはマネー経済と無縁ではいられない。それは「限界集落」と「株式会社」という一見相反するような、前近代と近代との融合を感じさせるタイトルにも表れているのだろう。
(引用終了)
<同書466ページ>
こういった問題提起を含みながら、多岐川優と美穂を中心とした個性あるれる面々の愉快な物語が展開していくわけだ。本とTVドラマとではストーリーが少し違っているようだから、ドラマだけ見た人は本も読むことをお勧めする。
これからの日本のあるべき姿や将来展望を、ここまで、政治・政策の視点から(「地方の時代 III」)、識者の対談から(「心ここに在らずの大人たち」)、体験的エッセイとして(「フルサトをつくる若者たち」)追いかけてきたわけだが、こうしたエンタテインメント小説を通して考えるのも面白い。
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