以前「理念(Mission)と目的(Objective)の重要性」の中で、企業は理念と目的の明確化が大切であると書いたが、企業は同時に、持てる資産(人的・技術的な力)の正確な自己評価(棚卸し)が必要だ。いくら立派な理念と目的を掲げても、それを達成する力がなければ何もならない。
その上で企業は、市場におけるビジネスモデルを作成する。ビジネスモデルは、持てる資産と市場との相関で決まってくる。どういうことかと云うと、市場は時代の変遷のなかで変化するから、いつまでも同じモデルを掲げていたのでは、いずれ持てる資産を十分に活用できなくなってしまう場合がある。逆に何かの理由で資産が変化することもある。だからビジネスモデルは変数でよい。この、資産と市場のマッチングを図り、モデルを適時修正していくことを、企業戦略(Strategy)と呼ぶ。尚、ここでいう市場が、人の「消費活動」ではなく「生産活動」の総和であるべきことはこれまで再三強調した。
企業戦略においては、(持てる資産が限られるスモールビジネスでは特に)柔軟な発想と、場合によっては大胆な決断が求められる。以下、面白いケースがあるのでご紹介しよう。ずっと以前アメリカの経営セミナーで聞いた話だ。
ベトナム戦争当時、非常に優れた爆弾を開発していた会社があった。しかしその後戦争が終わると平和な時代が訪れて、すっかり爆弾の需要がなくなってしまった。そこでかれらは別のお客に目を向けることにした。しかし建築現場や鉱山の発掘以外、だれも爆弾など使ってくれない。
困った彼らは、社会の動きについて今一度よく考えてみた。そうすると、戦争が終わったアメリカでは、車社会の安全性が注目されるようになってきていることが分かった。一方、爆弾のメカニズムをよく解析すると、「ある衝撃に対して爆発する」という原理に行き着く。爆弾はそのアプリケーションの一つに過ぎなかった。
そこで彼らは、安全、自動車というキーワードに、「ある衝撃に対して爆発する」という技術メカニズムを当てはめると、運転する人を事故から守るエアバッグが、爆弾と全く同じ原理であることに気が付いたのである。
その後その会社はエアバッグを自動車会社に売り込んで、人を事故から守る会社として発展していく。それまでの人を殺す爆弾作りから、人を生かすエアバッグ作りへの事業転進が面白いコントラストだったので、この話は私の記憶に長く残っている。
「ある衝撃に対して爆発する」という技術メカニズム資産→戦争から平和への市場の変化→資産と市場のマッチング・プロセス→爆弾製造からエアバッグ製造へのビジネスモデルの180度変換、といった図式がお解かりいただけるだろうか。
この話を生産と消費のテーマに当てはめてみると、「消費活動」だけを見ているということは、この会社が、戦争という場で如何に効率よく爆発する爆弾を作るかということだけを見ているということだ。それに対して、「生産活動」を見るということは、戦争が終った後の人々の「生産」の中心である、安全、車社会に目を向けるということである。そして、企業戦略を考えるということは、爆発のメカニズムを分析し、エアバッグと同じ原理だということに気づく過程のことなのである。
ところで、スモールビジネスとエアバッグといえば、オートバイ用のエアバッグを開発した、無限電光株式会社竹内健詞代表取締役の話が興味深い。先日フジテレビ・アンビリーバボーの中で「不屈の発明家」として放映された(2008年1月24日)。竹内健詞さんのスモールビジネスは、このブログで力説している、スモールワールド性(スペイン警察からの引き合い)やハブの役割(梅田務さんとの出会い)、新技術(火薬に替わる膨発の仕組み、耐久性があり温度の変化に強い新素材の採用)や理念の重要性(2億円の契約を断った事)などの具体的な素晴らしい事例である。
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