上質な建築物を見学したり写真集や図面を見たりするのは楽しい。意外な発見があればなおのこと良い。なかでも博物館や美術館は、建物と同時にその展示品も楽しめるので、面白そうな企画展があれば時間を見つけて出掛けるようにしている。
去年の秋、車で箱根の「ポーラ美術館」(日建建設/安田幸一設計)を訪れた。ガラスを多用した建物が紅葉した林に溶け込んだ様子や、「モネと画家たちのたび」と題された印象派の企画展も素敵だったが、意外な発見として、入り口のところから下に延びている、使われていない螺旋階段に気付いた。
そこで、何故こんな小さな螺旋階段があるのか考えてみた。緊急避難用だろうか?建物は、入り口からすぐのところに受付へ降りるエスカレーターがあるから、たとえ建物全体が停電したとしても、止まったエスカレーターを階段代わりに使えばよい。だから避難用とは思えない。荷物の搬入用だろうか?そうとしては階段の横幅が狭すぎる。むしろ実用ではなく、地下一階ロビーの光を透過するガラス壁同様、モダンな美術館の装飾の一つとして作られたものだろうか?そうだとすると設置されている場所が悪い。それとも単なる関係者の趣味だろうか?結局分からずじまいだが、設置経緯をご存知の方がいれば教えていただきたいものだ。
螺旋階段の面白いところは、中心の周りを回っているうちに空間を上下してしまうことだろう。勿論回っているといっても階段を上り下りしているわけだから、空間を上下するのは当たり前なのだが、狭いところをグルグル回っているだけで、空間を移動できてしまうような錯覚があって楽しいのだ。「同時並行読書法」であげた彫刻家イサム・ノグチの、「ブッラク・スライド・マントラ」という札幌大通公園にある作品は、階段と滑り台がらせん状に組み合わさった遊具で、子供たちは螺旋の生み出す不思議な周期運動を体感できる。
さて、螺旋というかたちで有名なのはDNAの二重構造だが、もうひとつ思い浮かぶのが「音階」である。螺旋と音階の関係については、「音律と音階の科学」小方厚著(講談社ブルーバックス)に詳しい。また、ポーラ美術館の螺旋階段は円柱状だが、純正律で音階を極座標上に表現すると、裾広がりの渦になるという。そういえば洋館の螺旋階段の多くは、そのような裾広がりの優雅な形をしている。
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