前回「integrityをインストールせよ」の項で、アメリカの学習基準として、
skills(スキル)
dispositions(資質)
responsibilities(責任)
self-assessment(自己評価)
の四つがあり、そのうちdispositions(資質)は、日本語には馴染まないが「思考や知的活動を左右する持続的な信念や態度」を意味する重要な項目だと述べた。このdispositionsについて、今回、ビジネス経営の観点からもう少し敷衍しておきたい。
ビジネスにおいて、経営者はdispositionsとして何を習得しなければならないのか。何を「信念」とし、「持続」させなければならないのか。
state(国家)の場合もそうだが、会社など「公」に関わる組織にはかならず「理念と目的」がなければならない。state(国家)の場合それが憲法前文などであるわけだが、会社の場合は企業理念などと呼ばれる。このブログでの言葉の定義を『複眼主義〜起業論』から引いておこう。
「理念(Mission)」:その会社がどのような分野で、どのように社会へ貢献しようとするのかを表現した声明文
「目的(Objective)」:その会社が具体的に何を達成したいのかを纏めた文章で、理念の次に大切なもの
会社とは、複眼主義でいうところの「生産」(他人のための行為)を、個人を越えた規模で行なう場合に設立されるもので、そもそも社会の役に立つために存在する。会社の利害関係者(stakeholders)には、株主・社員・顧客・地域社会などあるけれど、その商品やサービスが社会の役に立っていなければ会社の存在価値はない。会社がどう社会に役立とうとしているのかを示すのが「理念と目的」であり、それは、会社にとって自身の存在価値に関わる最も大切な文章だ。
従って、ビジネスにおいて、経営者が持つべき「持続的な信念」=dispositionsは、会社の「理念と目的」に裏打ちされていなければならない。会社の「理念と目的」こそ、経営者がdispositionsとして最初に習得しなければならないitemだと言ってもよい。以前「理念希薄企業」の項で述べたけれど、ここのところがしっかりしていない経営者が昨今多いのではないか。
ここで、「理念と目的」以下、このブログでの経営に関する言葉の定義を記しておこう。
「事業(Business)」:会社の「目的(Objectives)」の実現手段
「目標(Goals)」:事業の達成ゴール。年度別、月別など。いつ頃までに何をするのか。事業の最終目標を予め明らかにしておくことも大切。事業の最終目標は、何を達成したら(あるいは失ったら)その事業をやめるかという目標であって、売却のためのいわゆる出口戦略(exit strategy)とは違う。
「ビジネスモデル」:「事業と目標」のこと
「企業戦略(Corporate strategy)」:会社の資産(asset)と市場とを分析し、最適なビジネスモデルを考えること
留意していただきたいのは、「事業」も「ビジネスモデル」も、会社の「理念と目的」を達成するために存在するのであって、幾ら儲かるからといって、それらを独走させてはならないということだ。「企業戦略」「ビジネスモデル」あるいは事業戦略、事業計画などは、全て「理念と目的」の下位に位置付くものだ。重要な経営判断は全て、「理念と目的」に照らして成されなければならない。「理念と目的」の見えなくなった会社は、往々にして陳腐化した既存の「事業」や「ビジネスモデル」に縋り、ますます墓穴を掘ることになる。気をつけていただきたい。
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