「ハブ(Hub)の役割」のなかで、インターネット社会の持つ、スモールワールド性の可能性と、リッチ・クラブ形成の危険性が、ハブ(知人・友人が非常に多い人)の振舞い方ひとつで大きく左右されることを指摘した。
知人・友人の非常に多い人が、他の同様な人とのみ結びつきを強めると、閉鎖的なリッチ・クラブが形成されてしまう。一方、知人・友人の非常に多い人が、(知人・友人の)あまり多くない人達との結びつきを強め、リアルな「場」を数多く作り出してゆけば、社会のスモールワールド性が加速され、その中から様々なビジネスやサービス、芸術や理想が生まれてくる。
この可能性と危険性とをそれぞれ強調した本が、「ウェブ時代をゆく」梅田望夫著(ちくま新書)と「ウェブ社会をどう生きるか」西垣通著(岩波新書)である。梅田望夫氏はどちらかというと楽観的に可能性を語り、西垣通氏は気を引き締めて危険性に警鐘を鳴らすという違いはあるが、どちらもウェブ時代をどう生きるかということについて書かれた優れた考察だ。
ハブにはいろいろな立場の人がいる。大きな会社で働いている人達、経営者、高名な教授や医者、政治家やプロのスポーツ選手、人気レストランのシェフや音楽家、教師や先生などなど。そういう人が、ハブではない無名の人達と直接結びつくことが出来るのがスモールワールドの特色なのだが、これからの時代は、彼らのそういう努力がますます必要とされるだろう。*
また一方、ハブではない人達のスモールワールドへの積極的な関わりも欠かせない。今は知名度の高い人たちも昔は無名だったのだから、彼らに自分の思いをぶつけることに遠慮することはない。尊敬する有名人と知り合うことによって学び、堅実に自らの理想の実現に向かうならば、やがて将来あなた自身がハブの役割を果たすことになるに違いない。
多品種少量生産、食品の地産地消、資源循環、新技術といった新しい産業システムを牽引するのは、リアルな「場」に集うそれら多くの人たち、そして彼らが作り出す数々のスモールビジネスの筈だ。
* 先回「複雑系の科学と現代思想 アフォーダンス」という本を紹介したので、共著者の一人である三嶋博之教授にご連絡したところ、まったく面識がないにも関わらず、即日丁寧なご返事を戴いた。一つの例として記すと共にご厚意に感謝したい。尚、アフォーダンスについては、運動と環境の相補性と並び、もうひとつのキー・コンセプトが、「異所同時性」という時間論だと考えている。そして時間論については、昨年あるイベント・セミナーの折、山口大学時間学研究所の井上愼一教授、千葉大学の一川誠准教授などに持論を聞いていただいた。これからもネットとリアルのスモールワールド性を糧に、こういった「知のネットワーク」を広げていければと思う。
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