夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


同期現象

2014年09月16日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 2008年に「相転移と同期現象」の項で、『非線形科学』蔵本由紀著(集英社新書)を紹介したが、最近、同じ著者による『非線形科学 同期する世界』(集英社新書)という本が出版された。これは前著にもあった「同期現象」について、様々な例をとってさらに詳しく説明したものだ。

 同期現象とは、リズムとリズムが出会い、互いに相手を認識したかのように歩調を合わせてリズムを刻みはじめることで、シンクロ現象ともいう。蔵本氏はこの本の中で、ホイヘンスの二つの振り子、リズムを揃えるメトロノーム、同相同期と逆相同期、ミレニアム・ブリッジの騒動、ホタルの見事な光のコーラス、振動子ネットワークとしての電力供給網、生理現象としての同期、自律分散システムと同期などなど、様々な分野における「同期現象」を紹介し、物理や化学、生物学などの研究領域が同じ土俵に乗る「非線形科学」の重要性を説く。

 非線形科学とは、「全体が部分の総和としては理解できない」いわゆる非線形現象を追う研究であり、「全体が部分の総和として理解できる」線形現象を扱うために磨きをかけられてきた数々の手法では、容易に歯が立たない(同書8−10ページ)。

 このブログでは、21世紀は「モノ(凍結した時空)の空間的集積」よりも「コト(動いている時空)の入れ子構造」を大切に考える、いわゆる「モノコト・シフト」の時代だと述べているが、「モノ」の集積は線形的であり、「コト」の相互作用は非線形的な現象だ。「相転移と同期現象」の項の最後に、

(引用開始)

 非線形科学とは、「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」(『非線形科学』18ページ)といわれる。「1+1=2」というのが線形的な、比例法則の基本的考え方だとすれば、「1+1=1」、もしくは「1+1=多数」というのが非線形的な考え方である。ビジネスも人という「生きた自然」を相手にしているのだから、このような「数理的な科学」が必要なのだ。今後も、非線形科学のビジネスへの応用についていろいろと考えていこう。

(引用終了)

と記したのは、今から思えば「モノコト・シフト」の予見だったわけだ。「モノコト・シフト」の時代には「非線形科学」の重要性が増す。

 世界を「モノの空間的集積」としてみるか、「コトの入れ子構造」としてみるか。物理・生物・化学それぞれの科学分野で、いま前者から後者へ大きなシフトが起っている。『非線形科学 同期する世界』の「おわりに」から引用しよう。

(引用開始)

 分析に分析を重ね、世界を成り立たせている基本要素や基本要因を探り当て、ひるがえってそこから世界を再構成しようとするのが科学的精神の基本だと、私たちはいつの頃から思いこまされるようになったのでしょうか。もちろん、この科学的精神のおそるべき力を私たち身にしみて知っています。諸科学もこの基本戦略にしたがって自然のしくみを暴き、コントロールしようとしてきました。確かに、それは大成功でした。しかし、ここに来て、人々は疑いと不安を感じはじめているように見えます。ほんとうに「分解し、総合する」という基本戦略によってこの複雑な現象世界を理解し、末永くそれと共存することが可能なのかと。それのみではとらえがたい、自然の重要な反面があるのではないでしょうか。この基本戦略にとって不得意な数々の問題に単に目をつぶり、輝かしい成果だけを誇ってきたというのが事実ではないでしょうか。しかも、成果だけでなく災厄もともなって。
「分解し、統合する」一辺倒ではない科学のありかたが可能なことは、もっと広く知られてよいと思います。それは分解することによって見失われる貴重なものをいつくしむような科学です。ひとたび分解してしまえば、総合によって貴重なものを回復することはまず不可能なことだと心得るべきです。むしろ、複雑世界を複雑世界としてそのまま認めた上で、そこに潜む構造の数々を発見し、それらをていねいに調べていくことで、世界はどんなに豊かに見えてくることでしょうか。それによって活気づけられた知は、どれほど大きな価値を社会にもたらすことでしょう。今世紀の科学への最大の希望を、著者はこの方向に託しています。

(引用終了)
<同書 238−240ページ>

 ところで、この本のカバー帯に“驚異の現象「同期(シンクロ)」の謎を解く”とあるが、蔵本氏はあまり結論を急がない。様々な同期現象を並列的に語ってゆく。前項「助詞の研究 III」の最後に、「環境を中心にして物事を考えるとそこから見える現象に捉えられて事柄の本質を見失ってしまう、とはいえあまり性急に結論を出すのも考えものではある」と書いたけれど、この匙加減はなかなか難しい。複眼主義でいう、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
B Process Technology−日本語的発想−環境中心

のバランスだ。非線形科学のような複雑系の研究には、結論を急がない日本語の「環境中心性」の特色がうまく生かされる(こういった分野は日本人に向いている)ように感じる。先日「二つの透明性と複眼主義」の項で、

(引用開始)

モノとコトを複眼主義的に再定義してみると、

A、a系: 世界をモノ(凍結した時空)の空間的集積体としてみる
B、b系: 世界をコト(動いている時空)の入れ子構造としてみる

という大きな絵柄を描くことができそうだ。

(引用終了)

と書いたことと話が繋がってくる。

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posted by 茂木賛 at 13:08 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

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