この夏も猛暑で皆さんの中には大いにビールのお世話になった人も多いと思うが、今回は、ビールを通して、「モノ経済」と「コト経済」について考えてみたい。まずは「朝日新聞グローブ」から引用する(グラフや他の記事は割愛)。
(引用開始)
二極化するビール
ビールは世界で一番飲まれている酒だ。英シェフィールド大学のデイビット・グリッグ教授の論文によると、1997〜99年時点で、世界の酒消費量(重さ単位)の8割近くがビールだった。アルコール量だけで比べても、世界の消費の3分の1はビールによるものだ。
世界全体の生産量は1975年から2012年にかけて2.4倍に増えた(G-2面グラフ参照)。人口一人当たりでも4割近い伸びだ。
大まかな傾向として、ある国が経済成長し、一人当たりの所得が伸びるにつれビールの消費量も増えていく。おうせいな需要を満たすのは、大手メーカーによって大量生産されるビールが中心だ。ところがドイツや日本のように、ある時点から消費が頭打ちになり、高齢化や人口減に伴い、減り始める国もある。
そこで起きているのがいわば「二つの二極化」だ。一つの軸は、新興国と先進国。ビール消費量世界一の中国や、下の記事にあるベトナムのように、勢いのある新興市場に先進国のブランドが押し寄せ、激しい競争を繰り広げる。G-5面でみるように、国境を越えた企業の買収・再編や系列化も進み、ビール業界は上位5社が世界市場の約半分を押える寡占状態になっている。
もう一つは左の記事でみたような、先進国内での二極化だ。効率的な生産で低価格を売りにする大手メーカーと、独自性を強調するクラフトビール。1994年をピークに消費が減り始めた日本では、税制の影響もあって値段の安い「発泡酒」や「第3のビール」の開発競争が激しくなり、ビール系飲料の半分を占めるようになった。一方で、地ビールに再び注目が集まり、メーカーは200社を超えた。個性的なビールを飲ませる店も増えている。
ビールの飲み方、飲まれ方は、経済や社会の変化を如実に映し出している。
(引用終了)
<同新聞 6/15/2014>
ということで、ビール経済において「二つの二極化」が起っているという。今回はこれを「経済の三層構造」、
「コト経済」
a: 生命の営みそのもの
b: それ以外、人と外部との相互作用全般
「モノ経済」
a: 生活必需品
b: それ以外、商品の交通全般
「マネー経済」
a: 社会にモノを循環させる潤滑剤
b: 利潤を生み出す会計システム
と、「モノコト・シフト」から読み解いてみよう。モノコト・シフトとは、「“モノからコトへ”のパラダイム・シフト」の略で、20世紀の大量生産システムと人のgreed(過剰な財欲と名声欲)による、「行き過ぎた資本主義」への反省として、また、科学の還元主義的思考による「モノ信仰」の行き詰まりに対する新しい枠組みとして生まれた、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。
以前「21世紀の文明様式」の項で、
(引用開始)
西欧近代文明の時空は(地球規模ではあるが)一様ではない。「モノコト・シフト」の進んでいる地域もあれば、そうでない地域もある。進んでいる階層もあれば、そうでない階層もある。その中で、いち早く「モノ経済」が飽和状態に達したいまの日本(の多くの地域と階層)は、モノコト・シフトの最前線に立っているのではないだろうか。人口も減り大量生産・輸送・消費システムを増強する必要もない。だから日本は、この新しい思考の枠組みに移行しやすい筈だ。
(引用終了)
と書いた。クラフトビールは、大量生産されるビールと違い、作り手と飲ませる店、それと飲み手の距離が近く、三者の気持ちが相互作用する「コト経済」bに属している。日本で個性的なビールを飲ませる店が増えていることは、日本でモノコト・シフトが起っている証左といえるだろう。
一方、大量生産されるビールは、作り手と飲ませる店、飲み手の距離が遠く、それぞれが商品交通だけで繋がる「モノ経済」bに属している。先進国ブランドの大量生産ビールが押し寄せているということは、新興国ではモノコト・シフトがまだあまり進んでいないということだ。そう遠くない将来それらの国にモノコト・シフトの波が押し寄せると、日本のように個性的なビールを飲ませる店が増えるだろう。
勿論、日本にも大量生産されるビールはある。しかしモノコト・シフトが進んでいるこの国では、そういったビールにおいても、高級な「プレミアムビール」、上の記事にもある値段の安い「発泡酒」や「第3のビール」、さらには「ノン・アルコールビール」といった多様な商品が開発生産され、それぞれにおいて独自の物語性を訴求する(「コト経済」bに近づく)努力がなされている。
JALの雑誌「アゴラ」7月号を読んでいたら、ハワイ島のクラフトビールのことが書いてあった。ハワイでもモノコト・シフトが大分進んでいるのだろう。信州の情報誌「KURA」7月号には、軽井沢高原ビールの広告記事があった。
さて、このビール経済における「二つの二極化」現象、ビール以外の様々な嗜好品にも当て嵌まる法則だと思われる。たとえば珈琲(コーヒー)、たとえば音楽・美術、例えばおしゃれ用品、例えばパッケージ旅行、たとえば観光ホテル・旅館、などなど。皆さんが起業した会社、もしくは働いている会社がそういった分野に関わっているのであれば、是非この「ビール経済学」を参考にして、戦略を立ててみていただきたい。所得の伸びと経済発展を短絡的に結びつけないように。
珈琲の「コト経済」については、以前「コーヒーハンター」の項で書いたことがある。併せてお読みいただければ嬉しい。
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