この夏、『「植物の香り」のサイエンス』塩田清二/竹ノ谷文子共著(NHK出版新書、2024年)という本を読んだ。副題は「なぜ心と体が整うのか」。まず新聞書評によって内容を紹介しよう。
(引用開始)
解剖生理学、セルフケアの専門家らが、「植物の香り」が心身に与える良い効果や、疲労回復、ストレス解消などへの活用例を、最新の知見を基に紹介する。
香りが脳と体に働きかけるメカニズムを説明した上で、不安の軽減や睡眠の質の向上、女性の心身などに良い香りを、植物名を挙げながら解説。香り成分のうち実際にどれが効くのかも探っている。
香りで食欲を抑える実験例も。ダイエットに光明が差しそうだが、この分野の研究は発展途上のよう。とはいえ海外では医療現場や、トップアスリートがパフォーマンスの向上のために使うという植物の香り。可能性は奥が深そうだ。
(引用終了)
<東京新聞 3/23/2024>
香りの分子が鼻の嗅覚受容体に結合すると、その情報は電気信号として脳の神経細胞に伝わる。植物の香りの中には、自律神経を調整している視床下部に作用するものが多くある。人の心身は(自律神経のうち)交感神経系が活性化されると覚醒し、副交感神経系が活性化されるとリラックスするから、植物の香りによって、人は覚醒したりリラックスしたりできるわけだ。
参考までに本書の目次を掲げると、
序章 植物の香りでなぜ心身が整うのか
第一章 ストレスや疲労に効く香り
第二章 睡眠に効く香り
第三章 不安やうつに効く香り
第四章 脳を活性化させる香り
第五章 食欲を調節する香り
第六章 医療現場で利用される香り
第七章 女性の心身を守る香り
第八章 運動のパフォーマンスを高める香り
ということで、植物とその効き目が用途別に整理されていて分かり易い。
この本の最後に、巻末付録として当書で紹介された植物の一覧が載っている。全部で16あるから、これらを「16の香り」として以下引用しておきたい(あいうえお順、文章は抜粋)。
(引用開始)
1. イランイラン
バンレイシ科の常緑高木。インドや東南アジアに分布し、高さは大きなものだと30メートルを超える。名はタガログ語で「花の中の花」を意味するilang-iliangに由来。香りには鎮静作用がある。
2. カモミール
キク科の越年草。和名はカミツレ。ドイツでは「母なる薬草」と呼ばれるほど代表的なハーブ。薬用で発汗解熱剤として内服されるほか、リキュールなどの香りづけにも使われたり、花を乾燥させたものがハーブティーとして愛飲されている。精油は月経困難症などの疾患に効果がある。
3. クラリセージ
シソ科の多年草(または二年草)。高さ1メートル超まで成長する。全草に精油成分を含み、芳香がある。香りは抗ストレス、鎮静作用、生理痛など女性ホルモンに由来する症状の改善などに効果がある。
4. グレープフルーツ
ミカン科の常緑高木。ブドウのように一枝に多数の実がつくことからこの名があるといわれる。他の柑橘類と比較して糖質が少ないのも特徴。香りは脳機能の活性化(意欲や集中力の向上)や食欲の抑制などに効果がある。
5. コリアンダー
セリ科の一、二年草。非常に古くから利用されており、紀元前1550年頃の古代エジプトの医学文書に薬用について記載があるほか、プリニウスの『博物誌』にも登場する。現在ではエスニック料理の普及により、タイ語名のパクチー、中国語名のシャンツァイ(香菜)の名でもよく知られる。香りには鎮静作用などがある。
6. ジンジャー(ショウガ)
ショウガ科の多年草。世界中で重宝される代表的な香辛野菜のひとつ。漢方ではジンジャーの新鮮な根茎を生姜(しょうきょう)と言い、発汗剤・健胃薬などとする。体を温めて消化を助ける力を持つほか、殺菌作用も知られる。香りは食欲増進に効果がある。
7. ゼラニウム
フウロソウ科の多年草。園芸種としても多くの品種がある。葉面に馬蹄(ばてい)形の褐色の斑紋があり、その葉から抽出される精油にバラに似た香りがある。香りは更年期の女性ホルモンのバランス調整や抑うつ症状の改善に効果がある。
8. ティートリー
フトモモ科の常緑高木。オーストラリア原産で高さ8メートルほどまでに成長する。精油が取れる葉には殺菌力や抗感染力があり、オーストラリアの先住民族であるアポリジニが、葉をつぶしてケガの治療など万能薬として愛用していた。香りには抗菌・抗ウイルス作用がある。
9. ヒノキ
ヒノキ科の常緑高木。高さ30~40メートルほどになる。古くから最高品質の建材として活用されており、現在でも木材として最もよく栽培される種のひとつ。精油にはヒノキチオールが含まれ、香料にされるほか、皮膚病、口内炎などにも外用される。
10.ペパーミント
シソ科の多年草。和名はセイヨウハッカ、コショウハッカ。『新約聖書』の中でも香辛料として記されており、古代エジプトやローマでもるようされていた。薬用としては消化不良や緊張性頭痛などに用いられる。香りには疲労回復、食欲増進効果がある。
11.ベルガモット
ミカン科の、高さ4メートルほどの常緑低木。果皮を圧搾して抽出するベルガモット油は、オーデコロンの原料や石鹼の香料にも使われるほか、食品のフレーバー素材としても利用されている。アールグレイはベルガモットで着香した紅茶として広く愛飲されている。香りには抗ストレス、入眠促進作用、鎮静作用などがある。
12.マジョラム
シソ科の多年草。地中海沿岸の原産。後を引くクセのある香りは肉やチーズと相性がよく、イタリア料理でよく用いられる。古代ギリシャ、ローマでは「幸福」のシンボルとされ、新婚夫婦の冠に使われていた。またヨーロッパでは古くから抽出成分が民間薬として、気管支の症状や緊張性頭通、消化不良、筋肉痛や関節痛など、内用・外用問わず使われていた。
13.ラベンダー
地中海沿岸からアルプス地方が原産の、シソ科の多年草。多くの品種(系統群)があり、草全体から香りを放つため「香りの女王」とも呼ばれる。香りには抗ストレス、鎮静作用、食欲増進、生理痛など女性ホルモンに由来する症状の改善などに幅広く効果がある。
14.レモングラス
香料植物として熱帯地方の湿地で栽培されるイネ科の多年草。葉にシトラールという成分を多く含むことからレモンのような香りがあり、エスニック料理に多用されるハーブの代表として広く知られている。その香りは脳機能の活性化(意欲や集中力の向上)、抗ウイルスなどに効果がある。
15.ローズウッド
日本では「紫檀(したん)」と呼ばれるマメ科の常緑高木。木は堅く黒紅紫色を帯び、木目が美しいことから、昔から建築や家具材などに用いられてきた。ピアノ材としても珍重されている。材にほのかにバラに似た香りがあることから、この名で呼ばれるようになった。香りには鎮静作用がある。
16.ローズマリー
シソ科の常緑高木。ヨーロッパでは古来、羊肉の料理に欠かせないハーブとして珍重されてきた。薬用としては薬の浸出液が強壮剤に処方されたり、リウマチや外傷に外用されたりするなど、薬草としても栽培されてきた。香りは脳機能の活性化(集中力や記憶力の向上)、抗ウイルスなどに効果がある。
(引用終了)
<同書 206−212ページ>
以上、私はこれまでラベンダーを使うことが多かったけれど、これからは他もういろいろと試してみたい。皆さんも、これらの香りを楽しみつつ豊かな生活を送っていただきたい。尚、脳内情報伝達を調整する神経伝達物質や、血液中に放出されて情報を伝達するホルモンについては、以前書いた「神経伝達物質とホルモン」の項などを参照されたい。