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荷風を読む IV 

2024年02月20日 [ アート&レジャー ]@sanmotegiをフォローする

 以前「荷風を読む III」の項で、永井荷風(本名永井壮吉)について「近代不在の明治以降をよく知るために、彼の文学と人生をさらに研究したい」と書いたけれど、最近その目的に相応しい『おとめ座の荷風』持田叙子著(慶応義塾大学出版会)という本が出版された。読後さっそくX(旧Twitter)に感想をアップしたが、こちらでも改めて感想を整理しておきたい。

 まずは先月17日Xに上げた文章の転載から。
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『おとめ座の荷風』持田叙子著(慶応義塾大学出版会、2023年)を納得しながら読んだ。持田さんはこれまで『朝寝の荷風』や『荷風へ、ようこそ』などで、永井荷風のフェミニンな要素を様々辿ってきたけれど、今回それらを統合し、一気に荷風を「女性党作家」として定立したその手並みに感じ入った。

『おとめ座の荷風』A 女性党作家とは「女性性を敬愛し、日本女性の自立を支持・応援する作家」といったほどの意味だろうか。平和と女性(おとめ)のイノセンスを愛するという意味で「少女党」とも。

『おとめ座の荷風』B 第I部でたっぷりと荷風を語ったあと、第II部では森鷗外、上田敏、与謝野晶子、森茉莉といった作家たちを荷風と並ぶ「少女党作家」と認定し、最後は「時代をひきいる少女党」という章を設けて、これからの時代を担うのは平和とおとめのイノセンスを愛する女性の力であると宣言。

『おとめ座の荷風』C 複眼主義で言えば、もともと日本語は女性性に偏したところがあるから、この言葉(日本語)を用いる作家はすべからく「女性党」であって不思議はない。しかし皆がそうでないのは、各種男性性優位の思想や妙な思い込みが素直な感性の表出を邪魔してしまうからであろう。

『おとめ座の荷風』D 「女性党」の作家の中でも、他言語(漢語や英語など)によって理知的な構成力や洞察力(男性性)を兼ね備えた人だけが、女性性と男性性のバランスを適度に保つことが可能で、優れた作品を残すことが出来るのだと思う。

『おとめ座の荷風』E さっそく荷風の『地獄の花』(岩波文庫)を取り寄せて読み始めた。そのあとは既読の『浮沈』(岩波文庫)や、読みさしの『よみがえる与謝野晶子の源氏物語』神野藤昭夫著(花鳥社、没後80年記念出版)も。『地獄の花』は1954年版のリクエスト復刊で旧かなの儘なのが嬉しい。
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以上のような次第だが、『おとめ座の荷風』Cで述べた複眼主義とは、このブログで提唱しているものの見方・考え方。複眼主義では、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

という対比を掲げ、AとBのバランスを大切に考える。ただし、
・各々の特徴は「どちらかと云うと」という冗長性あり。
・感性の強い影響下にある思考は「身体の働き」に含む。
・男女とも男性性と女性性の両方をある比率で併せ持つ。
・列島におけるA側は中世まで漢文的発想が担っていた。
・今でも日本語の語彙のうち漢語はA側の発想を支える。

だから、もともと日本語は女性性に偏したところがあり、この言葉を用いる作家はすべからく「女性党」であって不思議はないとした。しかし皆がそうでないのは、特に男性作家の場合、A側の思考特有の各種イデオロギーが、B側の感性の表出を邪魔してしまうからだろうと推察したわけだ。

『おとめ座の荷風』Dで書いたのは、各種イデオロギーに邪魔されることのない「女性党」作家であっても、考え方がAとBのバランスを欠いている(考え方全体がB側に傾斜している)と、次第に環境に阿(おもね)った作品しか書けなくなってしまうだろうという話。外国語を知らない作家に多い筈。

 今『地獄の花』を読み終えて、『浮沈』(正確な岩波文庫のタイトルは『浮沈・踊子 他三篇』)の再読に入ったところだが、この本のカバー表紙に「時代をするどく批判した文学者・荷風による抵抗の文学」という紹介の言葉がある。明治維新以降、薩長主体の政府は、個の自立、機会平等といった「西洋近代」を充分消化できず、次第に「軍国主義」に嵌ってゆく。敗戦後も、米軍の支配に甘んじている現政府は、「西洋近代」の諸価値を充分咀嚼しているとは言えない。東京で徳川日本の遺風の下に育ち、長く西洋に滞在した荷風は、そういう「近代不在の明治以降」を批判し、それに抵抗する作家だった。

 抵抗するに当り荷風は、そもそも日本語的発想が女性性に傾斜していることを踏まえ、日本女性の自立を支持・応援することで、抵抗の「橋頭保」を築こうとしたのではないだろうか。家族制度の影響もあっただろうが「近代不在の明治以降」には、戦前も戦後も、女性の公(Public)の世界への進出が決定的に足りないのだ。

 『後期近代』の項で書いたように、いま時代は「近代」から「後期近代」へと移り変わってきている。このブログではまた、今の時代の傾向を「モノコト・シフト」と呼んでいる。「モノコト・シフト」とは、“モノからコトへ”のパラダイム・シフトの略で、20世紀の大量生産・輸送・消費システムと、人のgreed(過剰な財欲と名声欲)が生んだ、“行き過ぎた資本主義”に対する反省として、また、科学の「還元主義的思考」によって生まれた“モノ”信仰の行き詰まりに対する新しい枠組みとして、(動きの見えないモノよりも)動きのあるコトを大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。動きのあるコトは、複眼主義でいうA側の「空間重視」「所有原理」よりも、B側の「時間重視」「関係原理」との親和性が強い。後期近代をうまく乗り越えるには、複眼主義でいうB側の力がこれまで以上に重要になってくる筈。「これからの時代を担うのは平和とおとめのイノセンスを愛する女性の力である」という持田さんの宣言は、このような時代認識とも整合的なのである。

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posted by 茂木賛 at 10:16 | Permalink | Comment(0) | アート&レジャー

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