『森林で日本は蘇る』白井裕子著(新潮新書、2021年)という本を有意義に感じながら読んだ。副題は「林業の瓦解を食い止めよ」。伝統木造の大切さ、建築基準法の問題、景観や建築を自国の財産としない日本、木材の良さを生かせない制度、多様性を活かせない政策、徴収される新税の話などなど。まず著者の主張を同書の章立てから紹介したい。
(引用開始)
第1章 日本の建築基準法には自国の伝統木造は存在しない
木の長所と魅力を活かした伝統的な構法がないがしろにされている。
大工棟梁の技能も伝統構法も世界に誇れるものなのに……。
第2章 自国の伝統文化は国益に直結する
景観や建築を自国の財産としてきたフランス。
思想も哲学もない日本の建築基準法は一体どこを目指しているのか。
第3章 山麓の小さな製材所が持つ大きな可能性
木材の良さを生かせない制度、政策が価格を下げている。
闇雲な大規模化を目指す前に足元にある知恵を見直すことがチャンスを生む。
第4章 誰のためのバイオマス発電か
あまりに違う欧州の真似をしても資源も産業も疲弊する。
バイオマスは、エネルギーを使う現場から考える。
第5章 美しい山林から貴重な銘木が採れる列島なのに……
かつて銘木には1本3000万円以上で取引されたものもあった。
いまでも価値のある木は存在している筈なのだが……。
第6章 森林資源の豊かさと多様性を生かせない政策
諸外国が羨むほどの森林資源を活用できないのはなぜか。
豊かな資源で海外へ、将来へ打ち出す戦略を。
第7章 山中で価値ある木々が出番を待っている
日本の木の素晴らしさを日本人はどれだけ知っているのだろう。
この価値を高める製材業と林業の復活を。
第8章 林業機械から分かること
欧州の林業技術展の面白さはどこからくるのか。
日本は何よりもまず死傷事故を減らすこと。
第9章 いつの間にか国民から徴収される新税
補助金で縛るほど、林業は廃れる。
本質的な改革と成長は、おのれの意欲と意志で動き出すことから。
(引用終了)
<同書目次より>
第1章と第2章に日本の建築基準法の話がでてくる。建築基準法の問題は、以前「都市計画の不在」の項で都市計画との関連で指摘したが、林業や伝統木造の視点からも問題を抱えているという。このように、林業を家づくりや街づくりと直結させて考えることで、森林問題をより身近なこととして捉えることができそうだ。
第2章では伝統文化と国益の関係が語られる。以前「国家の理念(Mission)」の項で述べた、「これからの日本の国家の理念(どのような分野で、どのように世界に貢献しようとするのかを表現した声明文)」を考える上で、林業と伝統木造は、充分その一分野となり得ると思う。尚、以前別の候補として「発酵食品」を挙げたことがある。
このブログでは、これからの産業形態の一つとして「多品種少量生産」を挙げているが、第3章から第8章を読むと、多様性に富んだ日本の林業こそ、多品種少量生産に向いていると思える。家づくりと街づくりに直結した、スモールビジネスとしての林業。その将来性は大いにあると思う。
最後に、本書を読むきっかけとなった新聞の書評を引用しておきたい。
(引用開始)
白井裕子著『森林で日本は蘇る』(新潮新書・21年)は、林業は国によっては「国家を支える一つの基幹産業で」あり、「自立した『産業』であるべき」で、日本の森林・林業はその位置にある、という。その課題を実現するには、経済力を重視する立場に立って、まずは制度や公的関与から森林・林業を解き放つことが必要という。その上で、森林・林業にこそ数多く貯(た)め込まれている、日本人としての考えや気質が作り上げてきた個性的部分を再評価すべきだ、とする。
(引用終了)
<日経新聞 4/8/2023(「森林産業 豊かな将来性」より)
この「森林産業 豊かな将来性」(富山大学学長・岡田秀二)には、“新たな日本づくりにつながる創造的森林産業”という言葉がある。これからも日本の林業に注目してゆきたい。