夜間飛行

茂木賛からスモールビジネスを目指す人への熱いメッセージ


モノコト・シフトの研究 V 

2023年01月16日 [ 公と私論 ]@sanmotegiをフォローする

 このブログでは、今の時代に見える傾向を「モノコト・シフト」と呼んでいる。モノコト・シフトとは、20世紀の「大量モノ生産・輸送・消費システム」と人のgreed(過剰な財欲と名声欲)が生んだ、「行き過ぎた資本主義」(環境破壊、富の偏在化など)に対する反省として、また、科学の「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”の行き詰まりに対する新しい枠組みとして、(動きの見えない“モノ”よりも)動きのある“コト”を大切にする生き方・考え方への関心の高まりを指す。地域差があるから一概にはいえないが、日本の若年層の間ではシンプルな家や簡素化した生活が好まれ、キャンプや車中泊、トレランやジョギング、ソーシャルネットワークやゲームなどが流行りの先端を行く。観光業界などでは「コト消費」という言葉も生まれている。

 西洋近代ではこれまでも、人々が因習打破や人間性の回復を求め、自然など動きのある“コト”を大切に考えようとするムーブメントはあった。古くはウィリアム・モリスのアーツ&クラフツ運動、近くではサンフランシスコのフラワー・チルドレンなど。しかし当時は、宇宙や生命の原理はその物質解析の先に見えてくると信じられていて、“モノ信仰”の行き詰まりまではなかったと思う。自然は大切だが“モノ”は生活を豊かにし、世界を進歩させるというのが常識だった。

 動きのある“コト”といえば、過去二回の世界大戦も、戦争という渦のような“コト”に人々が巻き込まれた事例だが、それは人々が求めたというよりも、権力を握った富者が、金融と情報の操作を通じて人々を扇動した、といった方が正確だろう。新しい武器(“モノ”)がふんだんに供給され、“モノ信仰”のもとにあった人々はその威力に酔わされた。戦に負け、焼け野原に立った人々が次に求めたのも、復興物資という“モノ”であった。権力を握った富者は武器の供給で儲け、復興物資の供給で二度儲けたわけだ(greedの面目躍如)。

 2022年も、サッカーのW杯など人々を興奮させる様々なコトがあった。「後期近代 II」の項でみたウクライナでの戦争も起きたし、コロナ禍も続いている。今回は、モノコト・シフト以前の“コト”への熱狂と、モノコト・シフト時代のそれとの違いについて考えてみたい。

 「モノとコトの間 II」などの項で記してきたように、複眼主義ではモノとコトについて、

---------------------------------------
話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

と定義し、「世界はそれら無数の時空の入れ子構造としてある」と考える。一方、西洋近代の科学は「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」ことを前提にしていて、コトは「モノが時間の流れに沿って変化する現象」であると考えるから、コトの原因を探るには、それを構成するモノを解析すればよいとなる(還元主義)。

 複眼主義では、

A Resource Planning−英語的発想−主格中心
a 脳(大脳新皮質)の働き−「公(Public)」
A 男性性=「空間重視」「所有原理」

B Process Technology−日本語的発想−環境中心
b 身体(大脳旧皮質及び脳幹)の働き−「私(Private)」
B 女性性=「時間重視」「関係原理」

という対比を掲げ、AとBのバランスを大切に考える。ただし、
・各々の特徴は「どちらかと云うと」という冗長性あり。
・感性の強い影響下にある思考は「身体の働き」に含む。
・男女とも男性性と女性性の両方をある比率で併せ持つ。
・列島におけるA側は中世まで漢文的発想が担っていた。
・今でも日本語の語彙のうち漢語はA側の発想を支える。

モノとコトをこの対比に関連付けると、

A、a系:デジタル回路思考主体
世界をモノ(凍結した時空)の集積体としてみる(線形科学)

B、b系:アナログ回路思考主体
世界をコト(動きのある時空)の入れ子構造としてみる(非線形科学)

ということで、モノコト・シフトとは人々がB側を重視する傾向を指す。

 モノコト・シフト以前は、コトの背後にはモノがあると信じられてきたし、モノは生活を豊かにし、世界を進歩させると思われてきたから、一時の熱狂(Bへの過度の傾斜)はあっても、やがて(一部を除き)人々はAとBとのバランスを回復した。

 しかしモノコト・シフト時代以降は、モノ信仰が薄れているから、いっとき何かに熱狂(Bへの過度の傾斜)すると、人は永くその影響下に留まる(B側偏重が続く)ようになる。薬漬けになってしまう人々、ゲームオタクで引きこもりになる若者、戦争の長期化などなど。また、他人のB側傾斜をみて、反動で過度にA側偏重にシフトする人もでてくる。

 環境破壊や富の偏在化がA側偏重への反省を生み、それがB側への傾斜を齎したけれど、それが度を超すと、AとBのバランスを欠いた状態が出来するという次第。例えば戦争の長期化において、A側偏重の人はデジタル・AIを活用するドローン兵器使用にあまり抵抗感がないだろう。

 日本人(日本語的発想の人)はもともとB側に傾斜している。先の大戦では最後まで熱狂が覚めなかった。2023年が「新たな戦前」と呼ばれるのは、そういった日本人の特徴がふたたび顕著に顕れてきた兆しかもしれない。だから今の日本人はむしろA側を強くして、AとBのバランスを取らなければならない。その為には、例えば外国語を学ぶのも良い(「近代西欧語のすすめ」)。

 モノコト・シフトの時代、複眼主義によって、線形科学が(真理の追求などではなく)工学的なものにすぎないことを認識した上で、そうはいってもB側だけに過度に入れ込まないこと、AとBのバランスを保つことの大切さを肝に銘じたい。

モノコト・シフトの研究
モノコト・シフトの研究 II
モノコト・シフトの研究 III
モノコト・シフトの研究 IV

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:35 | Permalink | Comment(0) | 公と私論

モノとコトの間 II

2023年01月10日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 ここまで、「モノとコトの間」、「コトの制御」と、

---------------------------------------
話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という定義について書いてきたが、この定義のsignificanceについて「後期近代」という時代背景に即して考えを展開してみたい。

 西洋で発祥した「近代」の特徴の一つに、「合理主義」というものがあった。「後期近代」に入り、この合理主義はさらに「デジタル・AIの活用」へと進展してきているが、一方、合理主義の一側面である「還元主義的思考」によって生まれた“モノ信仰”に行き詰まりを感じ、動きのある“コト”を大切にする生き方・考え方への関心も高まってきている(モノコト・シフト)。そういう時代に上の定義は何を示唆するのだろうか。

 近代の合理主義は、時間と空間について「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という考え方を前提としている。複眼主義の「世界は無数の時空の入れ子構造としてある」という考え方を前提としていない。宇宙で起こるコトにはかならず原因となるモノがあり、コトは「モノが時間の流れに沿って変化する現象」であると考える。だからコトの原因を探るには、それを構成するモノを解析すればよい(還元主義)。多くの場合、コトの要因には複雑に絡まったモノが多数存在するから、解明には時間もかかるしそれを探る装置も巨大なものになる。

 こういった還元主義的思考に疑問が呈されるようになったのは、20世紀後半、カオス理論や複雑系と呼ばれる科学思考(非線形科学)が出てきてからのことだと思う。その前から熱力学などの分野ではコトの複雑さが指摘されてはきたけれど。

 「後期近代」に入り、科学界はようやく、還元主義をさらに突き詰める方向(デジタル・AIの活用)と、“コト”をコトとして捉えようとする方向(非還元主義的思考)とに分かれてきた。しかし「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という前提はまだ崩れていない。

 「西洋近代」を支えるのはキリスト教精神であり、世界の出来事が均一時空に存在する“モノ”の作用であるとすれば、その背後に(モノを操作する)万能の人格神を想定しても科学と矛盾しない。キリスト教と還元主義の親和性。デジタル・AIの活用の先端分野たる「遺伝子操作」などはぎりぎり神の領域に近づくけれど、還元主義者たちは神の操作範囲を後退させて行為を正当化するだろう。

 「宇宙は唯一無二の空間であり、そこには均一の時間が過去から未来へ滔々と流れている」という前提が還元主義的思考を生んだ。しかし、還元主義的思考によって“コト”は解明できない。ヒトの遺伝子をすべて同定しても生命の本質は解明できない。還元主義によって出来るのは、「工学的」に“コト”の効率を上げたり下げたりすることまで。それによって生活は便利になるが、自然環境は破壊されつつある。それが、モノコト・シフト、“モノ”よりも“コト”を大切にする生き方・考え方への関心の高まりを生んだ。

 複眼主義では、

---------------------------------------
話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という定義及び「世界はそれら無数の時空の入れ子構造としてある」という認識を前提に、コトのインパクトは、その時空の持つエネルギーの大きさと、話者とその時空との近接度によると考える。コトには動きの種となる環境はあるが、コトの原因にモノが存在するとは考えない。だから禍事に臨んで重要なのはその制御の方法であり、探しても見つからないモノを取り押さえようとすることではないという話になるわけだ。

 モノコト・シフトの時代を正しく捉えるためには、コトの原因にモノを探す還元主義的思考から離れ、コトをコトとして扱う複眼主義的思考への転換が必要なのだ。複眼主義の定義のsignificanceは、「後期近代」の今こそ見えてくるはずだ。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 13:05 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

コトの制御

2023年01月05日 [ 非線形科学 ]@sanmotegiをフォローする

 2021年の終わりに「モノとコトの間」という記事を書き、モノコト・シフト時代の特性の一端として、

---------------------------------------
話者から見て、
動きが見えない時空=モノ
動きが見える時空=コト
---------------------------------------

という複眼主義の定義を記した。世界はそれら無数の時空の入れ子構造としてある。今回は続編として、「動きが見える時空=コト」のうち、あなたやあなたの会社がよくないコト(禍事=わざわいごと)に襲われたとき、どうやってそれを制御するかについて、方法をいくつか挙げてみたい。皆さんが日々やっていることだろうが、こうして並べてみると、どういう場合にどの方法を選べばベストなのか、頭の整理にはなると思う。

(1)モノによる制御

川が氾濫したとき家の周りに土嚢を積むイメージ。物量作戦。あくまでも一時凌ぎでしかないが、緊急時には有効。冬山で寒さに襲われたときの防寒具など。

(2)流れを躱(かわ)す

時空の動きを観察して流れから身を躱(かわ)す。武道でいう受身。柔よく剛を制すともいう。

(3)動きの元を断つ

これができれば一番良いが、コトが大きくなってからでは難しい。気配を察知して、大ごとになる前に種を潰しておく。ただし天変地異などについては困難。

(4)巻き込まれないように離れる

コトはかならず場所で起こる。だから小規模なコトであれば、巻き込まれないようにその場所から離れるのが上策。

(5)コトに身を委(ゆだ)ねる

場合によってはコトに身を委ねることで禍(わざわい)を無化できる。例えば船に乗っているとき、遠方を見、揺れに身を委ねることで船酔いを防ぐことができる。

(6)コトをぶつけて中和する

ノイズに対して逆位相をかけて音を中和する。買収を仕掛けられたらカウンターで買収を仕掛ける。怒鳴られたら怒鳴り返す。手荒な解決法だし副作用も覚悟しなければならないが、上手くゆく時もある。

(7)しばし様子を見る

コトには初めと終わりがある。原因を探り次の動きを予測するなどして暫し様子を見ていると、禍が自然に収束する場合がある。

(8)コトを小分けにして対処する

大きな禍に襲われたら、禍(コト)を小分けにして上の(1)から(7)までの合わせ技で対処する。

(9)力を合わせてコトに当る

一人で対処できないような禍事には、仲間を集めてコトに当る必要がある。制御の方法は相談にて。

 以上、(1)から(9)まで並べてみたが、以下さらに書き足しておきたい。

〇解らないコトについては、解るまでよく考える事。

〇起こっているコトをよく観察して敵を見間違わないように。

〇体が弱っているときはエネルギーが満ちるまで待つ。

〇粘り強く、諦めない。

〇人間関係の禍にはとくに(4)と(7)が有効。(3)もあり。興奮した相手の話に水を差す。

〇コトにあたり好きなモノを身近に置くとpositiveになれる

禍事も「動きが見える時空=コト」の一種だから、それを制御する方法は必ずある。落ち着いて対処してほしい。先人もいうように、この世に「明けぬ夜はない」のだから。

TwitterやFacebookもやっています。
こちらにもお気軽にコメントなどお寄せください。

posted by 茂木賛 at 10:38 | Permalink | Comment(0) | 非線形科学

夜間飛行について

運営者茂木賛の写真
スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)主宰の茂木賛です。世の中には間違った常識がいっぱい転がっています。「夜間飛行」は、私が本当だと思うことを世の常識にとらわれずに書いていきます。共感していただけることなどありましたら、どうぞお気軽にコメントをお寄せください。

Facebookページ:SMR
Twitter:@sanmotegi


アーカイブ

スモールビジネス・サポートセンターのバナー

スモールビジネス・サポートセンター

スモールビジネス・サポートセンター(通称SBSC)は、茂木賛が主宰する、自分の力でスモールビジネスを立ち上げたい人の為の支援サービスです。

茂木賛の小説

僕のH2O

大学生の勉が始めた「まだ名前のついていないこと」って何?

Kindleストア
パブーストア

茂木賛の世界

茂木賛が代表取締役を務めるサンモテギ・リサーチ・インク(通称SMR)が提供する電子書籍コンテンツ・サイト(無償)。
茂木賛が自ら書き下ろす「オリジナル作品集」、古今東西の優れた短編小説を掲載する「短編小説館」、の二つから構成されています。

サンモテギ・リサーチ・インク

Copyright © San Motegi Research Inc. All rights reserved.
Powered by さくらのブログ